乙女と森野熊さん
マンションの角を曲がると追いかけていた男が見当たらず周囲を見渡す。
すぐ側には小さな公園があり、公衆トイレや大きめの木もある。
私はその中にゆっくり入って周囲を見渡した。隠れるとしたらどこか。
蝉の声がうるさい。日差しが熱い。何だかここだけ時間の流れが違うかのようだ。
目の前にある公衆トイレに近づいたとき、男が壁の後ろから声を上げて飛び出してきた。
素人だ。ただ声を上げて手を上げて走ってくるだけで獲物も持っていない。
私は鞄を投げ捨てると突進してきた男のTシャツをしっかり掴み、足をなぎ払った。
安物のTシャツなせいか服が破けて、男はそのまま受け身も取れずに焼けた地面に転がった。
頭から落ちたわけじゃ無いし、痛い痛いとしゃべってるので言ってるから大丈夫だろう。
警察に電話しようとしたらスマートフォンはさっき投げた鞄の中。