乙女と森野熊さん
私がきょろきょろ見回し場所を確認しようとしたら、突然足に痛みが走る。
スマートフォンを持ったまま視線を足下に向ければ、男が私の左足首を思い切り爪を立てて掴んでいた。
呆然としそうになり、また強く爪が食い込んだことで我に返り思わず足を振りほどけば、男は手を伸ばし這いつくばったままで私を見上げる。
顔を歪ませ睨むその目に、思わず再度足に伸びてきた男の手を思い切り蹴飛ばした。
「いてぇ!」
男は蹴飛ばされた手をもう一つの手で掴んで身体を丸めている。
「おい!誰か倒れているぞ!」
おじさんが二人公園に入ってきて、スマートフォンを握ったままの私と足下にうずくまる男を見て、何故か私を疑いのまなざしで見た。
誤解されているかもしれないと思ったが、スマートフォンから未だ声がすることにやっと気が付く。そういえば場所を聞かれたんだった。
私はわざと距離を保っているかのように立ち尽くしているおじさんに笑顔を浮かべて声をかけた。
「あの、ここ、どこですか?」