乙女と森野熊さん


「本当かね?どこに勤めてる?」


「警視庁です」


「へぇ、警視庁のどこ?」


おっさんがまるで問い詰めるように聞いてきて、答えようにも私は熊さんが警視庁に勤めているとしか知らなかった。

部署って捜査一課とかそういう意味だとは思うけれど聞いたことも教えてもらったことも無い。窓際の席に座ったまま、というならどこになるのだろう。


「なるほど、本当かどうかも怪しい」


その言葉に、ぶち切れそうになる。

さっきから私が何か悪いことをして嘘の家族を作って逃げようとしているかのように決めつけている。

私の大切な家族のことに土足で入られているようで、胸の中のムカムカが落ち着かない。


「わかりました」


私はそういうとどすんと椅子に座り、スマートフォンで電話をかける。

熊さんは昨日の朝から明日まで泊まりだと聞いていた。おそらく出張とかかもしれない。

迷惑になるのはわかっているけれど、嘘つき扱いされるのは我慢できなかった。

もしかしたら電話は出ないかもと思ったら数コールで電話が繋がった。


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