乙女と森野熊さん
「どうぞ」
おっさんは不審そうな顔で受け取ると、署と苗字だけ言っているがえらく横柄だ。
隣の若い警察官は気になるらしく電話に聞き耳を立てている。
そんな様子を見て急に不安になってきた。
熊さんは自分を窓際警察官だなんて言ってたし、これで査定とか昇進とかに影響しないだろうか。
暴力的な子供を保護していて、監督不行き届きとか言われて熊さんが責められたりしないだろうか。
私は俯いて、この行動が熊さんを追い詰めることになっているかもしれないと悪いことばかり頭の中を巡り怖くなっていた。
「そう、ふん・・・・・・え!?はい、はい、あー、そうでしたかー!」
急に高くなった声に驚いて顔を上げると、あのおっさんが笑みを浮かべている。
「怪我、えぇ犯人に足を掴まれまして。こちらで簡単ですが処置を。
えぇえぇもちろん女性警察官に。はいはい、もちろんです」
隣にいる若い警察官もぽかんとおっさんを見ている。
それにしれっと怪我のことを伝えやがった。イラッとしておっさんを睨むと、おっさんが私に向かって笑みを浮かべた。うわ、怖い。