乙女と森野熊さん

その後もひたすら、はいはいとおっさんは機械のように返していてこちらにスマートフォンを笑顔で差し出した。

私が不審そうに受け取ってスマートフォンを耳に当てる。


『乙女ちゃん』


「はいっ!」


怒ってる。それを感じ取って思わずビシッと声を出した。


『すぐに帰るから。自宅までは警察で送ってもらうよう頼んであるからね』


「え、今日泊まりじゃ」


『帰るよ』


「大丈夫だよ?それに電車でかえ」


『いいね?』


「はい」


思わずしゅんとなって返すと、電話の向こうで無表情なのにため息をついていそうな熊さんの顔が浮かぶ。




『ケーキ買って帰るけど何がいい?』


「・・・・・・ショートケーキが良いです」


『わかった。家に着いたらまた電話かけて』


「はい」


電話が切れて私は思いきり息を吐いた。

絶対に怒っている。いま食欲無いしケーキなんていりませんなんて言えなかった。

私が顔を上げると、何故かおっさんは笑みを浮かべていた。

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