乙女と森野熊さん
「痛む?」
「ううん」
大きな手が軽々と私の足を包み、今度は用意していた薬と湿布で手際よく処置を進めていく。上からは熊さんの頭と大きな肩で表情はわからない。
「ごめんなさい」
処置を終えた熊さんに声をかけると、熊さんが上を向く。
何だかあの葬儀場の控え室で熊さんが私に一緒に住もうと言ってくれた時と重なる。
熊さんは目の前のテーブルに道具を置いたまま、私の横に座った。
「どうして男を追いかけたんだ?」
「どうしてって、りんごちゃん突き飛ばした悪い人じゃない」
「いや乙女ちゃんが捕まえようとする必要は無かった」
上半身をこちらに向けて無表情のまま言うけれど、何故私が非難されるのだろう。