乙女と森野熊さん
「でも、熊さんだってそう思うでしょ?!
誰かが面倒くさいと思わず、勇気出して行動していたらみんな生きていたかもしれない!
今回のことだってそう!もし私が見逃して誰かお年寄りや子供が死んでしまったりすれば、きっと強い人間がいたのに見逃したのかって思うよ!」
「思うのは誰でも自由だ。でももしそれを乙女ちゃんに言うのなら間違いなんだよ。
本当に悪いのは犯人だけ。あの事故も悪いのは運転手とその運転手が勤めていた会社だ。もっと幅広く言えばそういう物流のシステムで動かないと行けないこの社会自体に責任がある」
「違う!そういう事じゃ無い!何でそんなに冷静なの?!みんな死んだのに!」
声が大きくなっていることに自分でやっと気が付き、私は何とか自分を落ち着かせようと俯いた。
「そうだね、俺と花が知り合わなければそもそもこんな事故は起きなかったかもしれない」
その静かな声に私は弾かれたように顔を上げる。
「ち、違う、違う、そういう意味じゃ」
「うん、わかってるよ」
熊さんの表情も声もずっと変わらない。でも私を責めていないことはわかる。
わかってる、そうは言っても熊さんと会わなければ両親は生きていたのにと思ったことはあるし、今もゼロじゃ無い。でもそれは違う。