BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~



「続きましてうめ組です。時には泣いて逃げ出して、毎日頑張って練習してきました。もち組"もりのなかまたち"になります」


先生が舞台の端で挨拶をしてブザーの音と共に幕が上がる。ステージ上に10人位の小さな子供達の姿があらわになった。




「「「もーりーのーなかまたちー」」」


右から3番目の1番背の低い子が希乃愛。
ざっくりいうと森の動物たちが好きな食べ物を持ち寄ってシチューを作ってみんなで食べる話なんだけど。
先生のナレーションに続いて音楽が流れて、子供達のダンスが始まる。



固まって動かない子、泣き出して先生にしがみついてる子、楽しそうに踊ってる子。その中にうさぎのお面をつけた希乃愛がいる。
希乃愛は半分固まって手を小さく動かしていた。手を振るとこっちに気が付いて、表情がぱぁぁぁと明るくなっていく。




「「「いただきまーす!!」」」


先生が作成したであろう大きなケーキが出てきて、子供達みんなが合わせて大きな声を出した。

こんな大きな会場で、大勢の中で、立派に発表する姿を見て胸の奥が熱くなる。



希乃愛とはじめて会ったのは、この子が1歳になる少し前。
笑わない、泣かない、喃語も無い、静かに親指を口の中に入れているだけ。俗に言う"サイレントベビー"。

私は希乃愛が産まれた時は知らない。産声も聞いてない。でも、はじめて、あの大きくて素朴な瞳と目が合ったのを今でも鮮明に思い出せる。





───まっ、まっまっまっまー、あぶー


───えー、なんかママって呼ばれてるみたいですね。香江ちゃんだよー。私、ママじゃないんだけどな





私、希乃愛のママでも良かったんだけどな。本当はなりたかった。なんて、そんなこと絶対に言えないけど──。



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