BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
「ただいま……」
「ママ、おかえりー!!」
定時で仕事を上がり、重い足取りで家に着く。
どっと疲れが押し寄せる中、玄関を開けると希乃愛が走って飛び付いてきた。
「の、希乃愛ぁ……」
目をキラキラとさせて、えへへと笑うこの子を見て、今日の出来事なんてどうでもよくなっていく。
小さな背中に手を回して、ギュッと抱き締めて安心したのもつかの間で──、
「香江、お仕事お疲れ」
エプロン姿の姉が、希乃愛の後ろに立っているのが視界に入る。
彼女が私達を見て口元を半円に描いているから、パッと目を反らした。
「今日はね、佐江に保育園のお迎えに行って貰ったのよ」
リビングに入ると、ソファに座る母が静かにそう口にする。
「そ、うなんだ」
「……んーっ、」
私の背中に隠れて、希乃愛が上着の裾を引っ張ってもじもじしてるけど。この子人見知りな筈なのに、もうお姉ちゃんに慣れたんだ。
「ねぇ、希乃愛。夕ご飯のお手伝いもしてくれたんだよね」
「たまごー」
「そう。希乃愛が茹で玉子の殻剥いたんだよ」
「んーーーっ」
姉がしゃがんで希乃愛に優しく語りかける。
2人のやり取りを目の当たりにして、胸の奥がぐるぐると嫌な感情でいっぱいになっていく。
「そ、っか……すごーい!偉いね!」
精一杯の明るい声を吐き出すと、希乃愛が得意気な顔を見せるから泣きたくなった。