Ray -木漏レ日ノ道へ-
広間の大時計が午後四時を告げる音を聞き終えると、目の前の彼は静かに口を開いた。

「これは憶測というか、可能性の話なんだけど──オレたちヴァンパイアは血の匂いを隠すために人間と同じような香水を使うんだ」

「香水って……」

「ヴァンパイアの女は特に匂いを気にして過剰に振り撒くヤツが多い」

あれは薔薇の匂いだったと説明すると、女性のヴァンパイアは薔薇の匂いを好む傾向にあると彼は言った。

「もう一度言うけど、ここからは可能性の話。君の身近に他にもヴァンパイアがいて、君の同僚がターゲットにされたかもしれない」

血の気が引いていく気がした。
皆が皆、彼のように善良なヴァンパイアではないだろう。

もし仮にヴァンパイアの仕業だとしたら、音信不通の咲子は今どういった状態なのか。

「確かめる方法はないんですか?」

「彼女の居場所がわかるなら手っ取り早いんだろうけど」

咲子の自宅の場所までは知らない。
実家暮らしでないことだけは聞いていたから、確認できる相手もいない。

「君はヴァンパイアが見える体質ってことは、スタッフルームに出入りする怪しい客とか見てないの?」

「レジの奥に通路があるから、そんな人がいたらすぐに気づくかと」

「職場に女性スタッフは?」

「社員は私と咲子、あとはアルバイトの子が数人。ちゃんと人間だと思うけど……あ、オーナーが女性です」

「オーナー?」

そういえば私も含め、誰もオーナーと直接会ったことがないという話を思い出し彼に説明した。

雇われの店長ですら、履歴書を送ったら面接もなしに採用の電話がかかって来たと驚いていた。

外見に強いコンプレックスがあるとか実は物凄い有名人だとか、噂になった時期もあったがすぐに誰も気にしなくなった。

店の裏口の鍵は店長と、おそらくオーナーも持っているはずだ。
裏口の鍵があれば、誰にも会わずスタッフルームに入ることも可能である。

まさか、オーナーもヴァンパイアなのではないかと、一度悪い方へ考え出したら止まらない。

「レイくん、本当に協力してくれる?」

「もちろん。何か良い作戦でも思いついた?」

「ちょっと強引だけど一番シンプルな方法。レイくんが私以外の人に見えないっていうなら、事務所にある履歴書から咲子の住所を調べて欲しい」

スタッフルームの隣には店長が事務仕事をする部屋を設けている。
そこに従業員の履歴書も保管してあるのだが、入口に防犯カメラがあるため、スタッフが理由もなく出入りすることは難しい。

「いいよ。今夜にでも決行しようか」
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