Ray -木漏レ日ノ道へ-
きっと大量の血が流れ出ているのだろう。
それが零れないよう吸い付いた唇と、舐め取る舌の感触。

「レイくん、いつまで……」

私の呼びかけにも彼は反応せず、その行為はしばらく続いた。

次第に眩暈を覚え自力で立っていられなくなると、それを見越していたのか彼に身体を支えられて、ベッドの端に座らせられる。

疲労なのか貧血なのか、やがて私の意識は途絶えることになった。

**

意識が朦朧としている。身体中が熱く、痛い。
横にいる誰かに精一杯の力で伸ばした自身の手が真っ赤に染まっている。

それを握ってくれた手はやけに白く、自分とは対照的だ。
そこでやっと思い出す──彼は名前も知らない友人。

いつも一緒に遊んでいたはずなのに、どうして彼の名を知らなかったのか。
……いや、彼には名前が無かったのだ。彼は人間ではなかった。

自分はもうすぐきっと死ぬ。
それならばせめて、今日こそは自分の血を彼にあげよう。

そうしたら姿形が無くなっても、この先も彼と一緒に生きられる。

友人だからといつも彼は頑なに拒否していたけれど、最期くらいその「友人」の願いを聞いて欲しい。

「ぼくの血を飲んで」

振り絞った声は彼に届いただろうか。
ヒカル、と彼が小さな声で僕の名前を呼んだ。

物知りな彼は僕に色々なことを話して聞かせてくれたけれど、いつだったか、どこかの言葉で光のことを「レイ」というのだと教えてくれた。

それを何故かこのタイミングでふと思い出して、僕は彼に伝える。

「レイ……きみの名前はレイ、だよ。ぼくとお揃い。カッコイイでしょ?」

**

目が覚めるとそこは広いベッドの上で、時計は深夜三時を回ったところだった。

何か長い夢を見ていたような気もするが、内容を思い出そうとすればするほど記憶から遠ざかっていく。

気怠い身体を無理に起こすと、サイドテーブルに用意されていたミネラルウォーターが目に入って手を伸ばし、はっとした。

夢の中で誰かに伸ばした手が、血で赤く染まっていたのを思い出した。
けれどあれは、私ではない誰かの記憶を夢で見たような、不思議な感覚だった。

──そういえば私は、ヴァンパイアであるレイくんに吸血されている途中で気を失ったのか。

彼はいったい何処へ行ってしまったのだろう。
久しぶりの血に満足して、もしかすると私の前にはもう現れないかもしれない。

もともと一度きりのつもりでいたのは私なのに、何故こんなにもやるせない気持ちになっているのだろうか。
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