Ray -木漏レ日ノ道へ-
トッピングの生卵を溶きながら私は、黙々とスプーンを口に運ぶ咲子のふっくらとした桃色の唇を見つめる。
視線に気づいた彼女は少し恥ずかしそうに手を止めた。
「咲子って細いし、ヘルシーなものしか食べないイメージだった」
「がっつりお肉食べますよ、私。さっきの話に戻りますけど、私は契約してるヴァンパイアがいたので貧血にならないように」
「契約してたって、過去形……?」
彼女は一度スプーンを置くと、グラスの水を口に含んだ。氷がからんと音を鳴らす。
ピッチャーを手にした金髪の男性店員さんがこちらを見ていたが、私が口を開くより先に咲子が彼に首を振っていた。
「さて、ちょっと湿っぽい話になっちゃうんですけど、あまり気にせず聞いてくださいね」
思わず背筋を正した私に気づいた彼女が「言ったそばから朱里さんは……」と困ったように笑った。
「実は私、児童施設の出身なんです。なかなかひどい場所で……逃げ出した私を拾ってくれたのが、この間亡くなった祖母──ってことにしてましたけど、本当のところは養母ですね」
まさかオーナーが亡くなっていたなんて。
またひとつ私は、彼女のことを知る。
「養母は西洋人みたいな外見をしてましたが、その正体はヴァンパイアだったんです」
「待って、元オーナーがヴァンパイアだったってこと? もしかして咲子が契約してたっていうのも……」
「はい。養母と私は契約関係にありました」
幼かった咲子は意味もよくわからないまま吸血行為を受け入れた。
小学校でいじめられて泣く咲子に養母がしてくれたキスが、彼女との契約だったと後に知ったという。
「私は騙されたとも思ってませんし後悔だってしなかった。養母は愛情いっぱいに私を育ててくれたので」
そこまで話を黙って聞いていたが、ひとつの疑問が頭に浮かんでくる。
初めてレイくんと会った時、彼は自分のことを死ねない身体だと話していた。
てっきり私はヴァンパイアというのは不老不死の生き物だとばかり思っていたが、咲子の養母のヴァンパイアは先日亡くなった。
「あの……ヴァンパイアって不死じゃないの?」
「朱里さんは彼からどこまで聞いてます?」
「死ねない身体だってことと、契約のことも少し……。人間でいう夫婦関係みたいなものだって」
「それだけですか?」
頷いた私に、彼女は少し言いづらそうに目を伏せた。
「……契約後のヴァンパイアの時間は有限になるんです。つまり、人間と同じように、いつか死んでしまう」
「え……?」
彼女がそのことを聞かされたのは、数ヶ月前だったらしい。
視線に気づいた彼女は少し恥ずかしそうに手を止めた。
「咲子って細いし、ヘルシーなものしか食べないイメージだった」
「がっつりお肉食べますよ、私。さっきの話に戻りますけど、私は契約してるヴァンパイアがいたので貧血にならないように」
「契約してたって、過去形……?」
彼女は一度スプーンを置くと、グラスの水を口に含んだ。氷がからんと音を鳴らす。
ピッチャーを手にした金髪の男性店員さんがこちらを見ていたが、私が口を開くより先に咲子が彼に首を振っていた。
「さて、ちょっと湿っぽい話になっちゃうんですけど、あまり気にせず聞いてくださいね」
思わず背筋を正した私に気づいた彼女が「言ったそばから朱里さんは……」と困ったように笑った。
「実は私、児童施設の出身なんです。なかなかひどい場所で……逃げ出した私を拾ってくれたのが、この間亡くなった祖母──ってことにしてましたけど、本当のところは養母ですね」
まさかオーナーが亡くなっていたなんて。
またひとつ私は、彼女のことを知る。
「養母は西洋人みたいな外見をしてましたが、その正体はヴァンパイアだったんです」
「待って、元オーナーがヴァンパイアだったってこと? もしかして咲子が契約してたっていうのも……」
「はい。養母と私は契約関係にありました」
幼かった咲子は意味もよくわからないまま吸血行為を受け入れた。
小学校でいじめられて泣く咲子に養母がしてくれたキスが、彼女との契約だったと後に知ったという。
「私は騙されたとも思ってませんし後悔だってしなかった。養母は愛情いっぱいに私を育ててくれたので」
そこまで話を黙って聞いていたが、ひとつの疑問が頭に浮かんでくる。
初めてレイくんと会った時、彼は自分のことを死ねない身体だと話していた。
てっきり私はヴァンパイアというのは不老不死の生き物だとばかり思っていたが、咲子の養母のヴァンパイアは先日亡くなった。
「あの……ヴァンパイアって不死じゃないの?」
「朱里さんは彼からどこまで聞いてます?」
「死ねない身体だってことと、契約のことも少し……。人間でいう夫婦関係みたいなものだって」
「それだけですか?」
頷いた私に、彼女は少し言いづらそうに目を伏せた。
「……契約後のヴァンパイアの時間は有限になるんです。つまり、人間と同じように、いつか死んでしまう」
「え……?」
彼女がそのことを聞かされたのは、数ヶ月前だったらしい。