Ray -木漏レ日ノ道へ-
想像して恥ずかしくなってくる。
二の腕はまだしも太腿は駄目だ、絶対に。

「……どちらか選ぶなら二の腕」

「わかった。じゃあ太腿にしよう」

「私の話聞いてた?」

「もちろん。太腿のほうが恥ずかしいってことでしょ? オレ、恥ずかしがってる君好きだし」

彼は少し屈んだかと思うと、私の膝裏に腕を入れ上体も一緒に支えて、いわゆるお姫様抱っこをするように抱き上げた。

突然のことに驚いて、咄嗟に彼の上半身へとしがみつく。

「レイくんの意地悪、悪魔」

「はいはい。悪魔じゃなくてヴァンパイアね」

ベッドに静かに下ろされると、すぐさま彼が私に覆い被さってきた。
私の頭の横で指を絡め取られ、キスの雨が降る。

それは額から瞼、頬、首へと場所を変え、最後は少しはだけられた胸元に小さな薄紅色の華が咲いた。

「……人間じゃない奴とするのは怖い?」

不安そうに瞳を曇らせた彼の首に手を回し、引き寄せる。

「今更じゃない?」

勇気を出して今度は私から彼へと口付けると、牙が私の下唇へわずかに刺さって、口内に鉄の味が広がった。

「……血、もったいないね」

彼はそんな私の唇を舐めては吸って、もはや口付けしているのか吸血されているのかわからない。

いつの間にか照明は落とされていて、薄暗くなった室内で私は彼を、彼は私を互いに求めて抱き締め合った。

**

彼と約束した休日はすぐにやってきた。
この日は朝から吹雪いていたのと、昨日のクリスマスが激務だったことから布団をなかなか出られずにいる。

遠くない場所だから雪が落ち着いたらゆっくり出かけようと彼は提案してくれたけれど、その言葉を聞いた途端になんだか申し訳なくなって無理やり身体を起こした。

「朱里さん疲れてるでしょ? ごめん、一昨日も無理させたから」

クリスマスイブの夜、それはもう色々な意味で激しかった記憶がよみがえる。

時計の針が二十四時を指した瞬間、壁越しに複数のクラッカーを鳴らすような音と騒ぐ若者達の声が聞こえ、次いで私のスマホは立て続けにメッセージを受信し始める。

ハッピーバースデー、素敵な一年になりますようにと、ありきたりなメッセージが普段連絡を取らないような同級生たちから届いた。

鬼のように鳴らされた電話は酔っ払った店長から。
早くおめでとうを伝えたかったというが、すぐに話題は家庭内別居中の奥さんのことになり、忙しいからと私は電話を切った。
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