Ray -木漏レ日ノ道へ-
すなわちそれは、過去に彼が光琉から血を貰ったということを意味していた。

それならば、いつ?
彼は弟の事故に何か関与していたのだろうか。

尋ねたいことがいくつも頭に浮かぶのに、何から聞いていいのかわからない。
そんな私の様子を察したのか、彼のほうから口を開いた。

「君の弟──光琉はオレの姿が見える子だった。ひとりでよく遊んだりしてたから、ちょっと心配で話しかけたのがきっかけで仲良くなったんだ」

思い出すように、ゆっくりと彼は立ち上がり言葉を紡ぐ。

「オレが実はヴァンパイアだって話も怖がらないで、空腹でふらふらだったオレに自分の血を飲めってよく言ってくれてたよ」

「それで弟の血を?」

彼が横に首を振る。
それを見て私は安堵のため息を吐いた。

「──あの日は確か天気が悪くて、普段の夕方より薄暗かった気がする。人通りのない路地裏で遊んでたところに、一台の乗用車が制限速度以上のスピードで近付いてきた」

「待って。犯人を見たの?」

「見たよ。警察も本当は犯人が誰かわかってるはずなんだ。……けど、闇が深くて明るみに出せずに未解決事件として片付けられた」

「そんなことって……」

泣きたい気持ちを精一杯堪えて、もう少しだけ私は彼の話を聞かなければならない。

「話を戻すけど、当時オレは今みたいに誰からも見える存在じゃなかった。もしオレが普通の人間だったら、すぐに助けを呼べたかもしれない。オレが君の弟を見殺しにしたんだ」

「そんなの」

レイくんは悪くないじゃないか。
そう彼に伝えたいのに、今これ以上声を出したら涙も一緒に溢れそうで。

両手で口元を押さえ、彼の胸に寄り掛かる。
けれど、彼は抱き締めてはくれなかった。

「意識を手放す間際、君の弟は自分の血を飲んで欲しいと言った。それが最期の言葉だった」

彼の話が終わる。
レイくんは、私が知りたかったことすべてを語ってくれた。

ここから先は、私の番だった。

「許さない」

「うん。だからオレもう──」

「私の前からいなくなるなんて絶対許さない」

「え?」

彼から離れて自分の足でしっかり立つ。
しっかりと目を見据えて、これは言ってやらないと気が済まない。

「契約したでしょ? この先、私以外の人の血を飲むのは許さないからね」

「朱里さん……」

「だって、レイくんは私のことが好きでしょう?」

「束縛強いなあ、もう」

薄らと目に涙を浮かべた彼が困ったように笑い、私を思いきり抱き寄せた。

糸のように降り始めた雨が私たちを濡らしていく。
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