Ray -木漏レ日ノ道へ-
「やっと調子取り戻してくれたみたいだから、本題に入ろうか」

「私の血が欲しいとか言い出すつもりですか?」

「うん。話が早くて助かるね」

やはり、そういう状況なのだ。
抵抗したところで人外の彼にはおそらく敵わないし、下手に逃げ回って殺されるくらいなら素直に従ったほうがいい。

──いや、血を与えたところで命の保証はないのだから最期の悪あがきくらいするべきか。

後者を選ぶにしても護身術なんて習ったことがないのだから、このままタイムリミットを迎えて前者を選択することになるだろう。

最悪、死ぬことだって覚悟しなければならない。
それならば少しでも時間を稼ごうと、私は思いつく限りの質問を彼にぶつけた。

「ちょっと待って。あなた、本当は何歳なんです? どうして私の前に現れたんですか? 血を摂取しないとどうなりますか?」

「ああ、ええと……これ全部答えたほうがいいの?」

「もちろんです。見ず知らずの人にいきなり頼み事されて、二つ返事でオッケーする人なんていないでしょう」

「……それもそうか」

彼は諦めたように呟き、辺りを見回すと数メートル先にある広場を指さした。

「ちょっとだけ疲れたからあのベンチで休ませて」

私が頷いたのを確認すると彼は先に歩き始める。

今なら逃げられるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎったが、もはや私にだって全力疾走する体力は残されていなかった。

辿り着いた広場のベンチに彼は深く腰掛けると空を仰いだ。

「大丈夫……?」

人間のような仕草に、つい心配の言葉が口から出てしまい後悔する。
どうして私は自分を殺すかもしれない化け物の心配をしているのか。

「ずっと血が足りてなくてね。で、なんだっけ。年齢? 一応、死ねない身体だからここ数百年くらいの記憶はあるよ」

「数百年?!」

「実際はもっと生きてるけどね。君にこうしてお願いに来たのは、君がオレのこと見えるみたいだから都合が良かっただけ。ちゃんと了承して貰わないと暴漢と同じでしょ」

「ちなみに、血は与えられない……と言ったら?」

「今日のところは諦める、かな。またお願いに来るけど」

映画や小説等の創作物で描かれるヴァンパイアのイメージから、てっきり恐ろしい生き物だとばかり思っていた。

数日前に流れていた深夜アニメでは、夜道で突然背後から襲い掛かり首筋に牙を突き立てるシーンが印象深かったせいか、まるで紳士のような彼の回答に思わず拍子抜けしてしまった。
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