Ray -木漏レ日ノ道へ-
「それで、血を摂取しないとどうなるんですか?」

「死にはしないけど、飢餓状態っていうの? 今みたいに大人の姿は保てなくなるし、ガリガリの子供の姿で血を分けてくれる人を探して彷徨うことになる」

想像して、心が痛くなった。子供の姿というのはずるい。

いくらヴァンパイアとはいえ見た目が人間と大差ないのであれば、そんな姿を見てしまった日にはきっと心が抉られる思いだろう。

「可哀想って思った?」

「……ちょっとだけ」

静かにレイくんの手が伸びてきて、私の腕を掴む。
少しだけ彼の近くに引き寄せられ、曇った瞳でじっと見つめられる。

私の腕を掴む骨ばった大きな手に温もりはないはずなのに、熱を帯びているような気がするほど真剣な表情だった。

「ね、助けて? 絶対痛くしないから」

強い風が吹き抜け、それに運ばれてきた白い粒が彼の柔らかそうな細い黒髪を飾り、あまりの美しさに息を呑む。

時間を止める魔法でも使われたかのような、一瞬の出来事は永遠にも感じられた。

ここで私が首を縦に振れば後戻りはできないとわかっている、けれど──

ただ、血を分け与えるだけだ。
彼のことを助けてあげてもいいのではないか。

私の中の慈悲の神に背中を押され一歩前へ踏み出すと、揺れ動いていた感情の波はとうとう私を頭から飲み込み、ずるずると戻れない場所まで引きずり込んでいく。

そして、気がつくと私は無意識のまま、空いているほうの手で彼の手を包んでいた。

「──どうしたらいい?」

今度は彼が息を呑む番だった。

「本当にいいの?」

「痛くないんですよね? それに、私が少し血をあげたら元気になるんでしょ?」

怯まないように堂々と言い切って彼の横に腰を下ろすと、伸びてきた左手がそっと私の右側頭部の髪に差し込まれ、梳くように撫でられた。

心地良さに思わず目をつむると、ゆっくりと後頭部に移動した手が私を引き寄せる。

電柱にぶつけた部分へ軽く口付けられたことに気づき、僅かな痛みと恥ずかしさから少しだけ身を引いた。

「力抜いて、こっちに身体預けて」

まるで恋人同士の戯れによく似た行為に顔が熱くなってくる。
しかし今から行われるのは吸血という未知の行為。

すぐに頭は冷静になり始め、緊張と恐怖から顔が強張り始めたのが自分でもわかった。

「もっとこっち」

言われるままに彼の肩口に顔を埋めると、羽織っていたコートの首元を崩された。
< 6 / 28 >

この作品をシェア

pagetop