彼氏がふたり
本当の恋人
「おい、どういうつもりだ」
「私の壮真が皆に馬鹿にされてるのが、許せなかったの」
「絶対それ違うだろ」
手を口元に当てしおらしくしてみせれば、八巻の声が辺りに響いた。
屋上の手前の踊り場。HR後、私と八巻はここに移動してきた。
「言っとくけど私じゃないからね。あんな噂流したの」
「知ってる」
「じゃぁ、どうして助けてあげたのに浮かない顔してるのよ?むしろ"ありがとう!"って私に感謝しなさいよ」
「誰も助けてなんて言ってない。しかもお前が彼女とかない」
「はぁ?人がせっかくあんな馬っ鹿みたいな芝居うってあげたのに信じらんない」
扉に寄りかかって座り込む八巻が面倒臭そうに大きな溜め息を吐いた。
私は、なんでこんな男のことをちょっとでも可哀相だなんて同情してしまったのだろうか。
「……気持ち悪くねぇの?」
「何が?」
「……お前、何が狙いだ?」
「えっ?」
特に見返りとかは考えてなかったけど。
八巻が不審そうに私に視線を向けるから、凄く警戒されている事が伝わってくる。
「唯斗か?唯斗と仲良くなりたいんだろ?」
「そっか、その手があったか」
「マジで何も企んでねぇの」
「だって、流石にそんなズルいこと出来ないよ」
「唯斗が、お前を好きになる事はない……」
「そんなの分かんないよー?」
八巻の言葉を遮ったのは、聞き覚えのある穏やかな声──。