彼氏がふたり
穏やかで優しい雰囲気のまま、まるでスローモーションのように唯斗くんが私に近付いてくる。
首元に唇を当て"ちゅぅ"と音を立てて吸われて。そのまま、ねっとりとした舌が這われ鎖骨に到達したところで、ガチャリと扉が開かれた。
「……何やってるんだ?」
明らかに不機嫌な八巻の声にハッと我に返った。と同時に、唯斗くんも上半身を起こして両手を上げてケラケラと笑い声をあげる。
「そんな怖い顔すんなって。冗談だよ、ちょっと脅かして遊んでただけー」
「唯斗の冗談分かりにくい」
あれが冗談?生温い感触が残る首元に手を当てて、熱が上がってくのを自分でも感じる。
「や、八巻の部屋汚いし男臭すぎるんだけど!ありえなーい」
「お前帰っていいぞ」
「ごめんごめん。へー、ゲームとか楽しそう」
なんて、テキトーに床に散らばった漫画を手にしてパラパラと捲りはじめる。
まだ心臓がドクンドクンと激しく打ち付けているけど、できるだけ平然を装ったところで唯斗くんの声が部屋に響いた。
「ねぇねぇ、2人ともさー。明日も恋人のフリするんでしょ?つき合ってるならさ、名前で呼び合えば?名字はないでしょー」
「そ、そっか!壮真でいいよね?」
「……あぁ?……下、美麻だっけ?」
ふーん。八巻の方も私の名前覚えてたんだ。まぁ、クラスメートだもんね。