彼氏がふたり
目の前にあった壮真の顔がゆっくりと離れていく。
"キャー"だか"ワー"だか騒ぐ声が耳に入ってきて、壮真にキスをされたのだと理解するのに少し時間がかかった。
「……ちょっ、壮真。いきなり何する…」
「美麻、真っ赤。可愛い」
真顔のまま壮真の親指と人差し指が私の唇に触れる。
さっきは言わされた感満載だったくせに、今だって顔色1つ変えないくせに。私の事、これっぽっちも好きじゃないくせに。
何で突然こんなことするの?
「壮真が女にキスとか面白れー」
唯斗くんの光の無い冷たい瞳にゾクリとした。
そのポツリと吐かれた小さな台詞は、爆笑してる利香と穂波の耳には聞こえていないみたい。
すぐにいつもの穏やかな表情に戻ったけど、明らかに私への強い憤りを感じさせるものだった。
だから、すぐに利用されたのだと分かって、隣の壮真をギッと睨み付けたのに当の本人はしらんぷり。
こいつ、わざと唯斗くんの前で見せ付ける為に私にキスをしたんだ。
彼と関係を続ける為に──。
「そ、壮真、皆の前じゃ恥ずかしいよぉ」
「誰も見てないならいいのか?」
皮肉を込めて甘えるような声を出して、壮真の制服の裾を摘まむと。その大きな手が私の頭をガシガシと乱暴に撫でて、口元が微かに緩んだ。