彼氏がふたり
「あれー、女子高生じゃん。おじさんと一緒に遊ぼうよ~」
「間に合ってまーす」
「制服でこんなとこウロついて危ないよ、送ってあげよっか?」
「…………」
バイト先を後にするのは、いつも大体21時を回ってしまう。
駅前の自転車置場までの道程は、変な酔っ払いによく声をかけられる。まぁ、無視するのもテキトーに交わすのも大分慣れた。
ネオン街が並ぶ駅前の通りは、酔っ払いや不良っぽい人も多いけど、お店が多くて比較的明るいし。1本向こうの裏路地にさえ入らなければ安全だと思う。
「……うるっせーな。違うって言ってんだろ?」
「おいっふざけんなよ!!」
低い叫び声と同時に、"ガンッ"と大きな音が耳に響いた。
うわ、最悪。喧嘩だ。怖いー。
その方向をチラリと見れば小さな電光看板が横転して、すぐ横に男の人がお尻をついて座っていた。酔っ払いか殴られたのか分からないけど。
時々、こういう男の人同士の喧嘩を目撃しちゃうるんだよね。
早くこの場から立ち去らなくちゃ。
「お前、南高だろ?あそこ俺の知り合い多いんだ。バレたらお前の高校生活おしまいだよな」
え、南高──?て、私の学校じゃん。
唖然と気を取られてると、地面の上にお尻をついたままの男の人と一瞬だけ目が合った。
八巻だ。八巻 壮真。
明るく染められた長めの前髪からは、悪い目付きが覗く。同じクラスで唯斗くんのただのお友達。
今日、私の事を唯斗くんから勝手に振った憎き男だった。