この『恋』の言い換えをするならば『瑕疵』(かし)です

「ごめんね
何もなくて…」



お兄ちゃんが帰らないから
仕方なく水を出した



「ありがと」



「お兄ちゃんお腹空いてるなら
外で食べる?
すぐ近くにラーメン屋さんとかあるよ」



「いや、いいよ、水で…」



お兄ちゃんの喉が動いた



「それ飲んだら帰ってね」



「誰か来るの?」



「誰も来ない」



「じゃあいいじゃん」



カリッ…カリッ…



お兄ちゃんの氷を噛む音が部屋に響く



「あ、ユア結婚するんだよ」



私の事を聞かれないように
ユアの話をした



「あー、ユアって高校の時の?
へー、それはおめでとう」



「高校の時のバイト先の店長なんだけど
店長、奥さんいてね
でもユアずっと好きで
ずっと諦めないで
店長離婚してね
その後付き合うことになったの
結婚とかすごいよね」



「うん、幸せになるといいね」



ずっと好きでも
ずっと諦めなくても

私は…



「幸せって、なんだろうね」



「なに?急に
瑛茉は、彼氏とどおだったの?」



結局その話になる

お兄ちゃんはきっと
その話を聞きに来たんだと思う



「お兄ちゃんに関係ないじゃん」



「うん、でも…
瑛茉に幸せになってほしいから…」



お兄ちゃん、幸せって何?

私の幸せって何かな?



「私の彼氏ね
他に好きな人がいたの」



「へー…二股?」



「二股…になるのかな…

気持ちは隠してたけど
私にはわかった

て、言うか…
最初から私の事なんて好きじゃなかったかも」



「そんなことないだろ
好きじゃなかったら付き合わないはず」



「私も好きだったのかな…

私から告白して
私から別れて

でも、辛くなかった」



強がりでもなんでもない

夏目先輩と別れたこと
夏目先輩が宮澤を好きだった事は
別になんとも思ってない



「好きじゃなかったの?」



好きとか嫌いとか
そーゆーのじゃない



同性同士でも友情じゃない好きって気持ち

愛情



それがただただ羨ましかった



「彼の好きな人ね
幼なじみで仲良くてね
いつも一緒にいて…
大学まで追いかけてくるって
絶対、好き同士だよね

今も一緒に地元帰ってる
楽しんでるかな…」



「へー…幼なじみね…
小さい時からずっと一緒にいたわけだ」



「うん…」



私とお兄ちゃんも
小さい時からずっと一緒だったのにね



「でも、好きかどうかちゃんと確かめたの?
幼なじみでしかないかもしれないし…
恋愛とかそーゆー感情じゃ
ないかもしれないし…」



「確かめたよ
私が気付かせてあげたかも…
感謝してほしい

あのね、同性の幼なじみなんだよ」



「え…」



あのふたりには
僻みとかヤキモチとか
そーゆー感情はわかなかった



お兄ちゃんに私の気持ち、わかる?



「羨ましかった
ただただ羨ましかった

恋愛が許される関係で…

ユアのことも
最初は不倫じゃんて思ってたけど
結婚するなんてね…

みんな…みんな…羨ましい

みんな…みんな…幸せになればいいな」



みんなのことが羨ましくて仕方ない



許される関係が
私には羨ましい



手に入れたくても入らない



ずっと近くにいるのに

ずっと一緒なのに

許されない関係



辛くて、苦しい



頬に伝った涙を
お兄ちゃんに気付かれないように拭った



お兄ちゃんに訴えても仕方ないのはわかってる

誰に訴えても仕方ない



誰に相談してもダメなこと



「お兄ちゃん…私…
一生幸せになんか…なれない…」



それもわかってるのに

幸せを求めてしまう



私もみんなみたいに幸せになりたい



目の前のお兄ちゃんが
どんどんぼやけて…

このまま
お兄ちゃんがいなくなったら嫌だな…って



「お兄ちゃん…」



声が震えた



「…」



お兄ちゃんは何も言わない



「お兄ちゃん、いなくならないでね…

いなくなったら嫌だよ

わがまま言わないから…
だから…
私の…私の…」



「瑛茉…」



お兄ちゃんの大きな手が
私の背中を撫でてくれた



お兄ちゃんは
いつも無責任に私に触れる



お兄ちゃんはいずれ
誰かと結婚する

誰かのパパにもなる



私からいなくなる



でもいつまでも
私の中に家族としてお兄ちゃんはいる



お兄ちゃんより好きな人を作ろうと
今まで努力してきた



でもやっぱり
私はお兄ちゃんが好きで

叶わない
受け入れられない
認められない

恋をしている



夏目先輩と宮澤
ユアと店長

私の気持ちも同じなのに…



私だけ誰にも祝福されない



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