この『恋』の言い換えをするならば『瑕疵』(かし)です

『家族』

春から就職したお兄ちゃんは
遠くに行っちゃった



私がたまに実家に帰ると
お母さんがお兄ちゃんとビデオ通話する



実家にはお父さんお母さんしかいない



「瑛茉が帰ってきてもお兄ちゃんいないし
これからはなかなか4人揃う事ってないよね」



「こーやってビデオ通話してたら
みんな一緒にいるみたいじゃん」



主にお母さんとお兄ちゃんがずっと話してる



お父さんはそれを聞きながら
ひとりでビールを飲んでる



「お父さんもお兄ちゃんと飲みたがってるよ」



「カンパーイ！って言いたいけど
オレ、今日仕事だから…」



お兄ちゃんは外国に行っちゃった

だから時差がある



「仕事、忙しいの？慣れた？」



「んーまぁ…」



「いつ帰ってくるの？」



「んー…
なかなかすぐ帰れる距離じゃないし
帰ろうと思ったら結構休みとらなきゃだし…」



「じゃあ、帰ってくるのは冠婚葬祭ぐらいか…」



お母さん少し寂しそう



「冠婚葬祭？
なんかある？
結婚しそうな友達なんかいないし…」



「お兄ちゃんは？そっちにいい人いるの？
せめて日本の人と結婚してほしいわ
そっちの人と結婚なんて言ったら
尚更帰って来なくなるよね」



「結婚なんてまだぜんぜん考えてない
そんなに寂しいなら
お父さんとこっちに遊びに来れば？」



「なかなか仕事の休み合わせるの大変なの
あ！瑛茉の夏休みに行けばいいか！」



え、私？

心の準備できてないし…



「瑛茉だっていろいろ忙しいだろ
お母さんひとりで来ても
オレが空港まで迎えに行くよ」



「じゃあ、早速パスポートとろうかな」



お兄ちゃんは私を避けてる



私が簡単に会いに行けない
遠くに行っちゃった



実家から通える距離の職場だったらしいけど
自ら海外勤務を望んだらしい



お兄ちゃんは
もぉ一生帰ってこないのかもしれない



「瑛茉、元気？」



いつもビデオ通話の片隅に映り込んでる私に
なんてことない言葉を掛けてくれる



「うん、元気だよ」



気持ちをおさえて交わす会話



「大学どお？」



無理に話しかけなくていいよ



お兄ちゃんは相変わらず
優しくてズルい