この『恋』の言い換えをするならば『瑕疵』(かし)です
「お兄ちゃん、大丈夫だった?」
「なにが?」
「手とか繋いでて…
先輩の奥さんに見られたよ」
「ダメなの?」
「しかも噂の…って、何を噂してるの?
主人から聞いてますって
お兄ちゃん、先輩に何か言ってるの?」
「うん、言ってるよ」
「変なこと言わない方がいいよ」
買った花瓶を出して花を活けながら
お兄ちゃんに言った
「変なこと?」
背中にお兄ちゃんを感じる
「お花、こんな感じでいいかな?」
「うん、綺麗だね」
お兄ちゃんの腕が私に回った
背中に感じたお兄ちゃんが
もっと近くなる
これからは
ずっとお兄ちゃんと一緒にいれるんだ
「お兄ちゃん
今日つまんなかった?
私だけか…楽しかったの」
「そんなことないよ
オレも楽しかった
…
早く帰りたかった理由は
瑛茉がお兄ちゃんお兄ちゃんて呼ぶから…」
「え?」
「もぉお兄ちゃんて呼んだらダメ
さっきも松本さんの奥さんの前で
お兄ちゃんて呼んだらどーしよ…って
スゲーハラハラした」
「だってお兄ちゃんが
お兄ちゃんて呼べって言ったんだよ」
「あの時は、まだちゃんと
お兄ちゃんでいたかったから…」
「もぉ、お兄ちゃん…じゃないの?」
「うん…
ダメなお兄ちゃんだった
…
お兄ちゃん失格
…
必死だった
ずっといいお兄ちゃんでいようって…」
「じゃあ、私は…なんなの?」
「噂の可愛い奥様でいいよ」
「もぉ!お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんじゃない」
その言葉にドキドキする
バレないように
花瓶の花を触った
「綺麗…いい匂い…」
「綺麗な花だよね
初めて見た
なんて名前の花かな?」
「花も綺麗だけど…
…
瑛茉…
綺麗…いい匂いする」
私を抱きしめるお兄ちゃんを
私は受け入れていいのかな?
まだ慣れない
後ろから首元が熱くなる
「お兄ちゃん…」
「呼ぶなって言ったじゃん」
「漸…ちゃん…」
「よくできました」
ーーー
首元にキス
熱い部分がもっと熱くなる
「瑛茉…好き…」
ちゃんと好きって初めて言われた気がする
「漸ちゃん…好き…
…
ずっと好きだったし…
…
たぶん一生…
一生好き」
「瑛茉…幸せになろうね」
熱い
熱くなってもいいの?
もぉ気持ちおさえなくていいの?
もぉ我慢しなくていいの?
「この花の名前
瑛茉っていうらしいよ」
「え!?ウソ!」
花瓶に活けた花を見たら
何かが光った
ん?
リングだった
「え!?お兄ちゃん、コレ…」
「あ、またお兄ちゃんて呼んだ
コレは没収だな」
お兄ちゃんが花に掛けられたリングを取った
「え、漸ちゃん…」
「一生好きでいてよ
オレもずっと好きだから…
…
もぉお兄ちゃんには戻らない」
左手の薬指
結婚した人が指輪をする場所
「瑛茉、愛してる」
ーーーーー
一生片思いだと思ってた恋が
愛になる
今日は酔ってないのに
キスしてくれた
満たされる
凄く幸せ
「今の一応プロポーズのつもりだから…」
「うん…
凄く嬉しい
…
指輪もありがとう」
「さっき言ってた旅行も
新婚旅行って名目でもいいけど
どこ行く?」
「新婚旅行か…
んー…そーだな…」
プロポーズとか
結婚指輪とか
新婚旅行とか
私にはないことだと思ってたから
考えたことなかった
「あ!さくらんぼ狩り!
さくらんぼ狩り行こうよ!」
「さくらんぼ狩り?
瑛茉、本当にさくらんぼ好きだな」
「漸ちゃんだって好きでしょ」
「好きだけど…
オレなりにいろいろ考えてたんだけどな…」
「え?考えてくれてたの?」
「うん、ずっと考えてた
瑛茉が奥さんだったら…って…
…
新婚旅行は海外で
何色のドレスが似合うかな…とか」
「それっていつから考えてたの?」
「中2ぐらいから」
「え!?中学生?」
「中学生男子なんかそんなもんだろ」
「そんなもんなの?
え、じゃあその頃から私のこと…」
「うん、好きだったよ」
「彼女いたくせに!」
「うん
いつも振られる時は
私と妹どっちが大切なの?って言われてた」
「どっちって…そんな…」
「もちろん、瑛茉
瑛茉が1番大切だから…」
「そんなに私のこと好きなの?」
「うん、好き」
「さくらんぼより?」
「うん、好き
瑛茉は?
さくらんぼとオレ…」
「んー…好きの種類が違う」
「あ、逃げた」
「逃げないよ
…
大好き、漸ちゃん…」
ーーー
「お腹空いてるから、それじゃ足りない」
「じゃあ、ご飯作るね」
「あ、逃げた」
「逃げないよ」
ーーーーー
ーーー
ーーーーー
私はこの腕の中で
熱くなる夢を何度もみた
「漸…幸せ…」
「うん、オレも…」
ーーーーー
「ドレス着てもいいの?」
「うん
お母さん、泣くかもね」
お母さんの涙が
嬉し涙であってほしい