この『恋』の言い換えをするならば『瑕疵』(かし)です

「それより漸ちゃん
朝コンビニでなにしてたの?」



「ちょっと出掛ける途中で
友達と寄っただけ」



出掛ける途中?

友達と…



お兄ちゃん今週旅行じゃなかったっけ?



もしかして…



「漸ちゃん、旅行って今日だった?」



「あー…うん
でも、旅行なんていつでもいけるし」



「漸ちゃん、すぐ行ってよ!
まだ間に合う?」



楽しそうに計画立ててたじゃん

楽しみにしてたんじゃないの?

さくらんぼ狩り



「いいよ
瑛茉が心配だから…」



「私はもぉ大丈夫だから!
私のせいで漸ちゃん…
この前、漸ちゃんの言うこと聞けばよかった
私が雨に濡れたから…」



「あれからだいぶたっただろ
そのせいじゃないよ
いいよ、気にしなくて」



お兄ちゃん、ごめんなさい



お兄ちゃんは私のせいで
楽しみにしてたさくらんぼ狩り行けなかった



あの女の人と
出掛けるの楽しみにしてたんでしょ

あの人もきっと楽しみにしてたよ



なのにお兄ちゃん怒らないんだ



「私達って喧嘩したことないよね」



「んー…ないかもね」



「それは、漸ちゃんが
いつも我慢してくれてたからでしょ」



「そんなことないよ」



「そんなことある!
いつもありがとね」



お兄ちゃんはいつも優しい



「なに?どーしたの?
瑛茉、今日素直じゃん」



「うん、いつもごめんね
生意気な妹で…
やっぱり漸ちゃんは私のお兄ちゃんなんだね」



いつも生じる違和感


お兄ちゃんと妹
その関係



お兄ちゃんをお兄ちゃんて認めたくなかったのは
私が負けず嫌いだからかな?


なんか…違う



「うん
瑛茉の、お兄ちゃんだよ」



なに?

なんか、ヤダ…



こんな妹ヤダって言ってよ

オマエなんかオレの妹じゃないって言ってよ

ホントはオマエはオレの妹じゃないって言ってよ



「お兄ちゃんが
私のお兄ちゃんじゃなきゃ、よかった」



なんだろう

この気持ち



自分でもよくわからない



「え…瑛茉、喧嘩売ってんの?」



お兄ちゃんが冗談ぽく言って笑った


私がさっき言ったのは
たぶん…冗談じゃない



「食べ物の好みも違うし
出来も漸ちゃんの方がよくて
私とお兄ちゃんて
ホントは兄妹じゃないんじゃないかって
何度か考えたことあった」



「瑛茉、そんなにオレのこと嫌いだった?」



笑ってたお兄ちゃんの顔が
少し引き攣った



「んーん…
そーゆーわけじゃない

お兄ちゃんのこと
お兄ちゃんて認めたくなくて
ずっと漸ちゃんて呼んでて…

真剣に
お母さんに聞こうか迷ったこともあった

よくドラマとか映画で
実は本当の兄妹じゃなくて…って
あるでしょ」



熱のせいかな?

私おかしい



「…」



お兄ちゃんひいてる?



こんな気持ち私だけ?



私だけか…



「ごめん、なんか私…」



「うん…そんな話、あるね…

でも、オレたち本当の兄妹だよ
オレ、お母さんに聞いたことあるから…」



「え…」



「お母さん笑って母子手帳見せてくれた

それでもなんか信じたくなくて…
オレは笑えなくて…」



さっきは笑ってたお兄ちゃんの温度が
なんとなく私に近付いた気がした



「漸ちゃん…?
私と、兄妹とか
やっぱり嫌だった?」



複雑な気持ちだ


本当の兄妹じゃなきゃよかったって
お兄ちゃんも思ってたの?



それとも…

まさか…



「いや…」



まさか…を期待してしまう



お兄ちゃんをのぞき込んだら
お兄ちゃんはもぉ笑ってなくて
思い悩んだ顔をしてた



ドッ…ドッ…ドッ…



また鳴った

あの音



私から聞こえる



「漸ちゃん…」



ドッ…ドッ…ドッ…



「瑛茉はオレの妹!
だからこれからは
ちゃんとお兄ちゃんて呼ぶこと!
漸ちゃんなんて呼んでんの
瑛茉と叔父さんぐらいだし…」



お兄ちゃんが私の音を掻き消した



「友達の前とか学校では一応意識して
ちゃんとお兄ちゃんとか兄って呼んでるよ!」



「漸ちゃんて
なんか子供みたいで恥ずかしいし…」



漸…

あの人はそう呼んでた


別に彼女とかじゃなくても
友達として呼んでるのかもしれないけど


羨ましかった

私も呼んでみたいな…



「漸…」



「え…」



お兄ちゃんと目が合った



お兄ちゃんは
お兄ちゃんじゃない男の人の顔をした



また呼びたくなる



「漸…」



ドッ…ドッ…ドッ…



また聞こえる



ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…



「瑛茉、勘違いしそうになる

だから、ちゃんと
お兄ちゃんて呼んで…」



勘違い…?


なにそれ?



ドッ…ドッ…ドッ…



鳴り止まない



「漸ちゃん…漸…

好き…」



おかしい

やっぱり熱のせいかな?



ドッ…ドッ…ドッ…



また熱くなる



「瑛茉、妹として
オレも好きだから…
これからは、ちゃんとお兄ちゃんて呼んで」



妹として



わざわざ付け加えられた言葉



私は…

私はね…

私の好きは…



お兄ちゃん
気付いたよね?

伝わったよね?



< 40 / 149 >

この作品をシェア

pagetop