あの時、一番好きだった君に。-恋恋し編-

 (ほんと、ちゃんと好きそうなのあって良かった……!)

 時間か無いと思ったから、航河君に連絡入れなかった。返信が無かったら、買える物も買えなくなってしまう。しかし、航河君なら話をすれば便乗すると思い、1人で買うには少しだけ奮発した値段のお酒にした。1人で買うことになっても、痛く無い程度で。

「まー、便乗すると思って、ちょっと良い奴にしたんだけど大丈夫?」
「もちろん! むしろありがたい。2人からで渡すのに、あんまり安くてもね」
「良かった。そう言ってくれると思ったから、そのつもりで買っちゃったんだよね」
「俺の性格よく分かってるね」
「多分、私が航河君の立場でも、同じことしたと思うよ?」
「そんな気するわ。……あ、お酒なら重いんじゃない? 持つよ」
「良いの? ありがとう」

 綺麗なシャンパンゴールドの紙袋を、航河君へ手渡した。

「そういや、俺今度旅行行く。友達と」
「そうなの? ……お土産よろしくー」
「良いのがあったらね?」
「冗談だよ。楽しんできてね」
「ありがと。てかさ、俺、結婚式の二次会って初なんだけど」
「私も初だよ? 結婚式自体と、披露宴なら身内のに参加したけど……」
「二次会だから、友達とかが多そうだよね?」
「多分?」
「大人ばっかりだよね、きっと」
「それはね、私も思った」

 少しだけ気が引ける。佳代さんの友人から見たら、私はきっと子どもに見えるだろう。精一杯背伸びをして、それでも大人びて見えるように服装もメイクも選んだつもりだ。

(無事終わりますように……!)

 食事やゲームの予想を立てながら歩いていると、あっという間に会場へと到着した。

「すみません、佳代さんの結婚祝いなのですが……」
「お名前よろしいですか?」
「藤田千景と、桐谷航河です」
「……はい、それではこちらに、丸をつけてください。この紙は、ゲームで使いますので。その時までお待ちくださいね」
「ありがとうございます」
「あちらの扉からどうぞ」

 受付に2人、男女で立っていた。佳代さんか、ご主人の友人だろう。

「……おぉ」
「披露宴も参加した人、多いのかな……?」

 教えられた扉から中をそっと覗いた。スーツを着た男性と、結婚式向けのドレスを着た女性の多さ。

(やば……私浮いてない……? 大丈夫……?)

 目立ち過ぎないよう、ワンピースは濃いめのベージュで、多少艶のあるものにした。胸元は黒地で、シュリンクになっている。

(コサージュとか付けた方が良かった……? 長めで大ぶりのネックレスとか……? あああ……! 分かんない……!)

 不安ばかりがぐるぐると頭を巡った。佳代さんに、恥をかかせることだけはしたくない。

「……大丈夫だよ? 千景ちゃん。そんな顔しなくても。似合ってるし、おかしくないから。胸張ってれば良いの。俺達また学生だけど、社会人と変わらないてしょ? って気分でいこうよ」
「う、うん……そうする」

 それでも、胸はドキドキと鼓動を高鳴らせている。

「平気。ほら、手、出して?」
「……?」

 私は言われた通りに両手を差し出すと、航河君が手に持っていた紙袋を腕に掛けて、私の両手を自分の両手で覆った。

(え、ええ!?)

「手握ったら、落ち着くかなと思って」
「あ、ありがとう……」

(逆に緊張した……! ……けど、あったかいな、航河君の手……。言われてみたら、落ち着く気がする)

「佳代さんのお祝いすれば良いんだから。それ以外は気にしなくて良いの」
「……うん。そうだよね」

 スッと不安が消えていく。これなら、大丈夫そうだ。

「先は決まってないみたいだから、あの空いてるところで良いんじゃないかな? 隣同士で座れた方が良いよね?」
「その方が私安心する……」
「俺もかな。じゃあ、あそこにしよう」

 まだ誰も席に着いていないテーブルの、隣同士ふた席を取った。テーブルの中央には、透明なキューブの入ったグラスと、花が生けられた小さな花瓶が置いてあった。

「この四角いのなんだろ……?」
「俺初めて見る」
「私も……」
「全部のテーブルにありそうだよね? 花はテーブルによって違うみたいだ」
「可愛い、これ」

 他愛無い話をしながら、他の人がやってくるのを待った。

「――すみません、ここ、大丈夫ですか?」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます! ――おい、こっち!」

 招待客が増え、私達が座っている席にも、4人グループの男女が座った。

「あ、どちらのご友人? ですか?」
「え、えっと、新婦、佳代さんのバイト先の人間です」
「へぇ、そうなんだ! 学生さん?」
「は、はい。大学生です」
「お隣の子は? 彼氏?」
「えっ、あっ、いやっ……。お、同じバイト先の子で……」
「今日は2人で店を代表してきました」
「そうなんだね! 俺達は新郎側の友達! よろしくね!」
「よっ、よろしくお願いします……」
「よろしくお願いします」

 人懐っこそうな笑顔に、白い歯が覗いている。

「あれ、もしかして俺達が最後だった?」
「もぉー。だからもっと早く行こう? って言ったじゃん?」
「間に合ったから良いだろ? 最後なんだ、って思っただけだよ」
「プレゼントどうする? いつ渡す?」
「退場の時か、新郎新婦と歓談出来る時じゃね?」
「んじゃそれでー」

(な、なるほど……! 参考になるなぁ)

 4人の話に聞き耳を立てる。そんなことをしなくても聞こえてくる距離だし、こちらから確認しても良かった話かもしれない。
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