黄昏色の街で
 電車通りから逸れて小さな公園の前を通る。 今は誰も居ないらしい。
「へえ、こんな所に公園が有るんですか? 寄っていきましょうよ。」 ますますご機嫌なお嬢さんである。
公園に入るとトンネルの前のベンチに腰を下ろす。 空はすっかり秋色である。
流れていく雲を見詰めながら物思いにふけっている佳代子を見詰めながら私はジュースを取り出した。
「そうだそうだ、コーヒー牛乳を飲もうっと。」 紅葉を見ながら佳代子はコーヒー牛乳を飲み始める。
そして私にそっと甘えてくる。 会社では見せない子供っぽい笑顔がまた可愛い。
そっと頭を撫でてみる。 なぜか、少しだけ自分の物に出来たような気がする。
「もっと触ってもいいんですよ。」 「ダメダメ。 彼女じゃないんだからね、まだ。」
「私、小林さんのこと 本当に好きなんです。 ずっと一緒に居たいんです。」 佳代子の言葉が胸に刺さってくる。
今更ながら、それが嘘ではないことに思えるのだった。 それでもまだ私は半信半疑である。
戸惑っていると不意に佳代子がキスをしてきた。 もう私は真っ赤である。
すっとベンチから立ち上がると思い切ったように佳代子を抱き締めた。 「信じていいんだね?」
「はい。」 「これからよろしくね。 佳代子さん。」
私は肩に顔を埋めた佳代子の髪を撫でた。 秋風の中で私は幸せだった。
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