黄昏色の街で
そしてまた後半の仕事に取り掛かるのである。 「今月は多いなあ。」
ボソッと言いながら書類に目を通していく。 そのたびに隣でクスッと笑う佳代子の声が聞こえる。
私は聞こえない振りをして仕事を続けている。 昼になった。
「お昼はどうされるんですか?」 「今日も牛丼かなあ。」
「ってことはあの店ですね?」 「そうだね。」
「あそこの月見うどんも美味しいですよ。」 「食べたこと有るの?」
「よく食べてます。」 「じゃあ行こうか。」
二人並んで社を出る。 なんだか親子みたいで気恥ずかしい。
「何恥ずかしがってるんですか?」 「いや、その、、、、。」
「今日は私がサポートしますね。」 「おいおい、やめてくれよ。」
苦笑する私の隣で何とも嬉しそうな佳代子が居る。 今まで味わったことの無い緊張感が、、、。
「小林さんって意外と初心なんですねえ。」 佳代子が笑っている。
そういえばそうかも、、、。 これまで女性と付き合ったことなど無いのだから、、、。
付き合うだけでなく、こうして隣に居ることも無かったのだから。
何処となく頼りなく見えるおじさんの哀愁が娘さんの母性を擽ったのだろうか? それとも?
私の取り柄って何なのだろう? 佳代子に勧められた月見うどんを啜りながら考えてみる。
有るのかもしれないが、私には分からない。 これまで兎に角仕事のことしか考えなかったから。
佳代子は隣で牛丼を美味そうに食べている。 かと思えばハンカチで口を拭って口紅を引き直している。
よく見るとこの子はそんなに化粧をしない子だったんだ。 今更気付いてどうするんだろう?
「珍しいですか?」 「え? いやいや、、、。」
面長の博美に比べても丸顔の佳代子は私の好みに思えている。
ささっと口紅を直すと佳代子は席を立った。 腹でも立てたのかと心配していたが、、、。
「小林さんのも払っちゃいました。 行きましょう。」とニコニコしている。 (やられた。)と私は思った。
店を出てまた二人で歩き始める。 初めて見る佳代子の後姿に私はドキドキしている。
「私ね、小林さんみたいなお父さんが欲しかった。」 「え?」
「お父さんって毎晩飲んでるし、何を聞いても恨めしそうな顔で応えてくれないし隣に座ると嫌そうな顔するし、、、ほんとに嫌だった。」
「そうなの?」 「だから小林さんみたいな男の人を見ると甘えたくなるんです。」
「今までも?」 「んんんん、小林さんが初めてだなあ。」
私はますます驚いた。 「初めてだって?」
「同じ部署で仕事しなかったら分からなかったかもしれませんね。」 「そうなのか、、、。」
「私、小林さんに恋してるのかも。」 「恋?」
「これまで人を好きになったこと無かったんです。 遊んでるように見られがちなんですけど、、、。」 「真面目だったんだね?」
「どうでしょうねえ? 臆病だったのかも。」 「臆病か、、、。」
私はふと自分の半生を思い出してみた。
いつの時も好きでも気持ちを伝えられない自分が居た。 ラブレターを書いては見ても渡したことさえないのである。
気付いたら他の誰かと付き合って楽しそうにしている女の子を見て(自分には縁など無いのだ。)と言い聞かせてきた。
ところが今はどうだろう? 佳代子はこうして楽しそうにしている。
同期の博美のことも気にならないことは無いのだが、それより何より佳代子が居る。
まるで私を父親のように慕ってくれている佳代子が居る。
私にはそんな佳代子が娘に思えるのである。
「小林さん、今夜飲みに行きませんか?」 珍しく佳代子が誘ってきた。
戸惑ってみてもしょうがない。 私は誘われるままに誘いに乗った。
仕事が終わって社を出ると、いつもとは違う方向へ向かう市電に乗る。 西荒井町へ向かうのだ。
居酒屋に入ると私たちはカウンターの奥のほうに座った。 そして静かに飲み始める。
手前側では野球ファンのおじさんたちが賑やかに盛り上がっている。
酎ハイを飲んでいる佳代子の頬が赤くなってきた。 やっぱり可愛いね。
ボソッと言いながら書類に目を通していく。 そのたびに隣でクスッと笑う佳代子の声が聞こえる。
私は聞こえない振りをして仕事を続けている。 昼になった。
「お昼はどうされるんですか?」 「今日も牛丼かなあ。」
「ってことはあの店ですね?」 「そうだね。」
「あそこの月見うどんも美味しいですよ。」 「食べたこと有るの?」
「よく食べてます。」 「じゃあ行こうか。」
二人並んで社を出る。 なんだか親子みたいで気恥ずかしい。
「何恥ずかしがってるんですか?」 「いや、その、、、、。」
「今日は私がサポートしますね。」 「おいおい、やめてくれよ。」
苦笑する私の隣で何とも嬉しそうな佳代子が居る。 今まで味わったことの無い緊張感が、、、。
「小林さんって意外と初心なんですねえ。」 佳代子が笑っている。
そういえばそうかも、、、。 これまで女性と付き合ったことなど無いのだから、、、。
付き合うだけでなく、こうして隣に居ることも無かったのだから。
何処となく頼りなく見えるおじさんの哀愁が娘さんの母性を擽ったのだろうか? それとも?
私の取り柄って何なのだろう? 佳代子に勧められた月見うどんを啜りながら考えてみる。
有るのかもしれないが、私には分からない。 これまで兎に角仕事のことしか考えなかったから。
佳代子は隣で牛丼を美味そうに食べている。 かと思えばハンカチで口を拭って口紅を引き直している。
よく見るとこの子はそんなに化粧をしない子だったんだ。 今更気付いてどうするんだろう?
「珍しいですか?」 「え? いやいや、、、。」
面長の博美に比べても丸顔の佳代子は私の好みに思えている。
ささっと口紅を直すと佳代子は席を立った。 腹でも立てたのかと心配していたが、、、。
「小林さんのも払っちゃいました。 行きましょう。」とニコニコしている。 (やられた。)と私は思った。
店を出てまた二人で歩き始める。 初めて見る佳代子の後姿に私はドキドキしている。
「私ね、小林さんみたいなお父さんが欲しかった。」 「え?」
「お父さんって毎晩飲んでるし、何を聞いても恨めしそうな顔で応えてくれないし隣に座ると嫌そうな顔するし、、、ほんとに嫌だった。」
「そうなの?」 「だから小林さんみたいな男の人を見ると甘えたくなるんです。」
「今までも?」 「んんんん、小林さんが初めてだなあ。」
私はますます驚いた。 「初めてだって?」
「同じ部署で仕事しなかったら分からなかったかもしれませんね。」 「そうなのか、、、。」
「私、小林さんに恋してるのかも。」 「恋?」
「これまで人を好きになったこと無かったんです。 遊んでるように見られがちなんですけど、、、。」 「真面目だったんだね?」
「どうでしょうねえ? 臆病だったのかも。」 「臆病か、、、。」
私はふと自分の半生を思い出してみた。
いつの時も好きでも気持ちを伝えられない自分が居た。 ラブレターを書いては見ても渡したことさえないのである。
気付いたら他の誰かと付き合って楽しそうにしている女の子を見て(自分には縁など無いのだ。)と言い聞かせてきた。
ところが今はどうだろう? 佳代子はこうして楽しそうにしている。
同期の博美のことも気にならないことは無いのだが、それより何より佳代子が居る。
まるで私を父親のように慕ってくれている佳代子が居る。
私にはそんな佳代子が娘に思えるのである。
「小林さん、今夜飲みに行きませんか?」 珍しく佳代子が誘ってきた。
戸惑ってみてもしょうがない。 私は誘われるままに誘いに乗った。
仕事が終わって社を出ると、いつもとは違う方向へ向かう市電に乗る。 西荒井町へ向かうのだ。
居酒屋に入ると私たちはカウンターの奥のほうに座った。 そして静かに飲み始める。
手前側では野球ファンのおじさんたちが賑やかに盛り上がっている。
酎ハイを飲んでいる佳代子の頬が赤くなってきた。 やっぱり可愛いね。