あなたの霊を守ります 霊キャプター宮城の一日
第1章 衝撃の事件から
「こちら宮城。 ただいま第2コーナーに差し掛かりました。 車は絶好調です。
エンジンにも問題は有りません。」
「こちら監視ヘリコプター。 スプリンターフラッシュ01の現在時速は130キロ。 第2コーナーを、、、。 え?」
「どうした? 監視ヘリコプター! スプリンターフラッシュはどうしたんだ?」 「消えました。 まるで湯煙のように消えてしまいました。」
「消えたって? 夢でも見てるのか?」 「いえ、ほんとです。」
ここは鹿児島県沖の無人島である。 笹尾コーポレーションが25年前に買い取って以来、レーシングコースの整備が行われてきた。
それがようやく形になった今年はレース参加を見据えて宮城茂をドライバーに迎えてのテスト走行が続けられているのである。 その最中に事件が起きた。
「第2コーナーを曲がっている所で消えたんだな?」 「そうです。 ずっとヘリから見守っていたんですが、、、。」
「それで車は見付かったのか?」 「おかしなことに何処にも無いんです。 破片すら転がっていません。」
「何だって? 破片すら見付からない? 神隠しかね?」
コーポレーション会長の笹尾正和は腕を組んだ。 呼び集められた警備隊員も暗い顔をしている。
「確かに宮城の報告は受けているんだ。 その直後にだな、、、。」 警備隊長の川嶋伸介は納得できない様子で現場へ向かった。
「確かにここで消えてるんだね?」 「そうです。 でもスリップしたわけでも転落したわけでもありませんね。」
「ほんとにそうだ。 シンクロワープでもしたのかね?」 「しかし、この島にシンクロワープできるような機材も無いし人間も居ませんよ。」
「そこが問題なんだよ。 鈴木君。 何処かにそのような組織でも有ったらどうする?」 「ぼくはお断りします。 超常現象とかそういうのは苦手なんです。」
「俺だって好きじゃないさ。 でも宮城がそのようなやつに巻き込まれたとしたら考えざるを得ないよ。」 川嶋は現場を離れるとコースを見渡せる高台に上った。
その頃、管理センターでは不思議なメールを受け取っていて、みんなはそれに困惑していた。
『山 呪い 室町』
ただそれだけの文面で差出人も宛先も空欄のままである。 「これはいったい?」
「山って言うけど何処の山なんだろう?」 「分からない。 とにかく今は宮城が無事に戻ることを祈ろうじゃないか。」
しかし、ただ一人、そのメールを見詰めて溜息を吐く署員が居た。 スプリンターフラッシュのエンジニア 吉田渚である。
「山、、、呪い、、、室町、、、。 何か意味が有りそうね。」 「そう思いますか?」
「宮城さんはたぶんテレポートさせられたのよ。 しかも車ごとね。」 「何処へ?」
「それは私にも分からないわ。 でもテレポートは間違いないと思う。」 渚は宮城の机に目を落とした。
宮城の机の上には三日前の整備記録が書かれたノートが置かれていた。 「エンジンにもタイヤにも不備は無いのよ。 でも突然消えてしまった。 なぜ?」
それは渚にも解けない謎である。 彼女は整備ブースへ向かった。
そこにはスプリンターフラッシュの2号車が置いてあるのだ。 渚はそのドアを開けた。
運転席に座ってみる。 宮城があの時、何をしていたのか?
川嶋はというと高台からコースを見下ろしている。 「全体的に問題は無い。 あのカーブに異常事態が起きたとしか考えられないな。」
監視ヘリの山崎正治ももう一度ヘリを飛ばして上空から捜索をしているが、、、。
「どう見ても何処にも車は無い。 全国の警察へ手配しよう。」 「それしか無いな。 国内の何処かへ飛ばされているんだろう。」
一方、宮城茂は白い闇の世界をさ迷っていた。 「ここは何処なんだ?」
車に乗っていたはずなのに今は闇の中をさ迷い歩いている。 何がどうしてどうなったのか、皆目見当が付かないでいる。
「俺は死んでいるのか? それにしては感触が有るんだ。 どうやったらこんなことになるんだ?」 闇は果てしなく続いているように思える。
元の場所へ戻ろうとするのだが、それが何処なのか思い出せない。 「記憶を奪われてるらしいな。」
とにかく前進するしかない。 そうは思うが、進んでも進んでも闇は変わらない。
と、微かに山のような物が見えた気がした。 「あれは?」
だが、それは一瞬の幻のようにも思えてくる。 確かに在ったはずなのに、、、。
ここでは時間の感覚も無くなっているらしい。 彼は相当に歩いているはずなのに疲れていないことを不思議に思った。
スプリンターフラッシュが消息を絶った翌日、全国紙は一面でこのニュースを伝えていた。
笹尾コーポレーションがレースに参加するために開発した最新鋭のレーシングカーとそのドライバーが行方不明になったのだ。
これ以上のビッグニュースは無い。 テレビ局も記者を送り込んで取材攻勢をかけ始めた。
「だから何度も話してますが、宮城茂と車は跡形を残さずに消えたんですよ。 探しようが有りません。」 「事故の可能性は無いんですか?」
「部品も残っていないので何とも言えません。」 「この島で心霊現象などは無かったんでしょうか?」
「私は霊媒師でも宗教家でもないので分かりません。」
川嶋はそんなやり取りを聞きながら今日も調査のために車を走らせている。 「確かに第2コーナーの真正面には絶壁が有る。 しかしこれも何らの損傷も受けていない。 どうなっているんだ?」
絶壁の前に車を止めてみる。 相当に高い絶壁だ。
「不思議だな。 跡形も残らずに消えるなんて、、、。」 その脇を渚が乗ったサポートカーが通って行った。
「ここで消えたのよね。 何も無ければいいけど、、、。」 だが、そこは以前、古い屋敷が見付かった所だった。
その屋敷はトンネル工事のために取り壊されることになっていた。 けれど工事関係者が奇病に冒されて精神に異常をきたしたことがきっかけで移築されることになったのだ。
だが、屋敷はその後も荒れるに任せて放置されてしまっている。 それが原因なのか?
でも渚にはそうとは思えなかった。 あの暗号のようなメールとも符合しないのである。
山、呪い、室町、、、。 これはいったい何を意味しているのであろうか?
テレビ局は連日のように不思議な行方不明事件を追い掛け続けている。 犯罪心理学者などを呼んではいろいろと推理めいたことを喋り続けている。
「あれじゃあ、しばらくレーシングコースは走れないぞ。 素人があれやこれや言うものだから見学させろって野次馬がうるさくて適わない。」
施設管理者の鈴川幸一も頭を抱えてしまっている。 「ワイドショーはあれが仕事だからしょうがないですよ。」
「とは言うけどね、こうも寄ってかかられたら防ぎようが無いんだよ。 どうするんだ?」 「取り合えず取材を受けない旨を伝えましたから。」
とはいうが、疑惑報道は火に油を注ぐが如くで激しくなるばかり。 ついにはマスコミが野次馬合戦を始めてしまった。
「どうしようもないなあ。 拒否すれば騒ぐし、受ければ延々と聞いてくる。 ロボットにでも対応させたいもんだな。」 川嶋も鬼瓦のような厳しい顔で記者を迎え撃つしか無いようだ。
宮城は何処へ消えてしまったのだろうか? 新聞も連日の大騒ぎである。
終いには笹尾に消されたのではないか?という噂まで飛び出してきた。 「消すって言っても何をどうしたらそんな発想になるんだい?」
「俺に言われても困りますよ。 推理作家じゃないんだから。」 「それもそうだ。」
宮城が消えてから一週間、島は大変な騒ぎを迎えている。 関係者以外は立ち入り禁止にしているのに、【知る権利】を振り翳すマスコミは土足で踏み込んでくる。
「今の取材状況は通常では考えられないことばかりです。 平常心を持って取材活動には十分に配慮してもらいたい。」
総務相までが懸念を表明する事態である。 いつか国民的大ニュースになってしまっていた。
驚きの情報が飛び込んできたのは十日ほどが経った金曜日の午後だった。 川嶋のスマホが鳴った。
「川嶋さん? スプリンターフラッシュが見付かりましたよ。」 「何処
エンジンにも問題は有りません。」
「こちら監視ヘリコプター。 スプリンターフラッシュ01の現在時速は130キロ。 第2コーナーを、、、。 え?」
「どうした? 監視ヘリコプター! スプリンターフラッシュはどうしたんだ?」 「消えました。 まるで湯煙のように消えてしまいました。」
「消えたって? 夢でも見てるのか?」 「いえ、ほんとです。」
ここは鹿児島県沖の無人島である。 笹尾コーポレーションが25年前に買い取って以来、レーシングコースの整備が行われてきた。
それがようやく形になった今年はレース参加を見据えて宮城茂をドライバーに迎えてのテスト走行が続けられているのである。 その最中に事件が起きた。
「第2コーナーを曲がっている所で消えたんだな?」 「そうです。 ずっとヘリから見守っていたんですが、、、。」
「それで車は見付かったのか?」 「おかしなことに何処にも無いんです。 破片すら転がっていません。」
「何だって? 破片すら見付からない? 神隠しかね?」
コーポレーション会長の笹尾正和は腕を組んだ。 呼び集められた警備隊員も暗い顔をしている。
「確かに宮城の報告は受けているんだ。 その直後にだな、、、。」 警備隊長の川嶋伸介は納得できない様子で現場へ向かった。
「確かにここで消えてるんだね?」 「そうです。 でもスリップしたわけでも転落したわけでもありませんね。」
「ほんとにそうだ。 シンクロワープでもしたのかね?」 「しかし、この島にシンクロワープできるような機材も無いし人間も居ませんよ。」
「そこが問題なんだよ。 鈴木君。 何処かにそのような組織でも有ったらどうする?」 「ぼくはお断りします。 超常現象とかそういうのは苦手なんです。」
「俺だって好きじゃないさ。 でも宮城がそのようなやつに巻き込まれたとしたら考えざるを得ないよ。」 川嶋は現場を離れるとコースを見渡せる高台に上った。
その頃、管理センターでは不思議なメールを受け取っていて、みんなはそれに困惑していた。
『山 呪い 室町』
ただそれだけの文面で差出人も宛先も空欄のままである。 「これはいったい?」
「山って言うけど何処の山なんだろう?」 「分からない。 とにかく今は宮城が無事に戻ることを祈ろうじゃないか。」
しかし、ただ一人、そのメールを見詰めて溜息を吐く署員が居た。 スプリンターフラッシュのエンジニア 吉田渚である。
「山、、、呪い、、、室町、、、。 何か意味が有りそうね。」 「そう思いますか?」
「宮城さんはたぶんテレポートさせられたのよ。 しかも車ごとね。」 「何処へ?」
「それは私にも分からないわ。 でもテレポートは間違いないと思う。」 渚は宮城の机に目を落とした。
宮城の机の上には三日前の整備記録が書かれたノートが置かれていた。 「エンジンにもタイヤにも不備は無いのよ。 でも突然消えてしまった。 なぜ?」
それは渚にも解けない謎である。 彼女は整備ブースへ向かった。
そこにはスプリンターフラッシュの2号車が置いてあるのだ。 渚はそのドアを開けた。
運転席に座ってみる。 宮城があの時、何をしていたのか?
川嶋はというと高台からコースを見下ろしている。 「全体的に問題は無い。 あのカーブに異常事態が起きたとしか考えられないな。」
監視ヘリの山崎正治ももう一度ヘリを飛ばして上空から捜索をしているが、、、。
「どう見ても何処にも車は無い。 全国の警察へ手配しよう。」 「それしか無いな。 国内の何処かへ飛ばされているんだろう。」
一方、宮城茂は白い闇の世界をさ迷っていた。 「ここは何処なんだ?」
車に乗っていたはずなのに今は闇の中をさ迷い歩いている。 何がどうしてどうなったのか、皆目見当が付かないでいる。
「俺は死んでいるのか? それにしては感触が有るんだ。 どうやったらこんなことになるんだ?」 闇は果てしなく続いているように思える。
元の場所へ戻ろうとするのだが、それが何処なのか思い出せない。 「記憶を奪われてるらしいな。」
とにかく前進するしかない。 そうは思うが、進んでも進んでも闇は変わらない。
と、微かに山のような物が見えた気がした。 「あれは?」
だが、それは一瞬の幻のようにも思えてくる。 確かに在ったはずなのに、、、。
ここでは時間の感覚も無くなっているらしい。 彼は相当に歩いているはずなのに疲れていないことを不思議に思った。
スプリンターフラッシュが消息を絶った翌日、全国紙は一面でこのニュースを伝えていた。
笹尾コーポレーションがレースに参加するために開発した最新鋭のレーシングカーとそのドライバーが行方不明になったのだ。
これ以上のビッグニュースは無い。 テレビ局も記者を送り込んで取材攻勢をかけ始めた。
「だから何度も話してますが、宮城茂と車は跡形を残さずに消えたんですよ。 探しようが有りません。」 「事故の可能性は無いんですか?」
「部品も残っていないので何とも言えません。」 「この島で心霊現象などは無かったんでしょうか?」
「私は霊媒師でも宗教家でもないので分かりません。」
川嶋はそんなやり取りを聞きながら今日も調査のために車を走らせている。 「確かに第2コーナーの真正面には絶壁が有る。 しかしこれも何らの損傷も受けていない。 どうなっているんだ?」
絶壁の前に車を止めてみる。 相当に高い絶壁だ。
「不思議だな。 跡形も残らずに消えるなんて、、、。」 その脇を渚が乗ったサポートカーが通って行った。
「ここで消えたのよね。 何も無ければいいけど、、、。」 だが、そこは以前、古い屋敷が見付かった所だった。
その屋敷はトンネル工事のために取り壊されることになっていた。 けれど工事関係者が奇病に冒されて精神に異常をきたしたことがきっかけで移築されることになったのだ。
だが、屋敷はその後も荒れるに任せて放置されてしまっている。 それが原因なのか?
でも渚にはそうとは思えなかった。 あの暗号のようなメールとも符合しないのである。
山、呪い、室町、、、。 これはいったい何を意味しているのであろうか?
テレビ局は連日のように不思議な行方不明事件を追い掛け続けている。 犯罪心理学者などを呼んではいろいろと推理めいたことを喋り続けている。
「あれじゃあ、しばらくレーシングコースは走れないぞ。 素人があれやこれや言うものだから見学させろって野次馬がうるさくて適わない。」
施設管理者の鈴川幸一も頭を抱えてしまっている。 「ワイドショーはあれが仕事だからしょうがないですよ。」
「とは言うけどね、こうも寄ってかかられたら防ぎようが無いんだよ。 どうするんだ?」 「取り合えず取材を受けない旨を伝えましたから。」
とはいうが、疑惑報道は火に油を注ぐが如くで激しくなるばかり。 ついにはマスコミが野次馬合戦を始めてしまった。
「どうしようもないなあ。 拒否すれば騒ぐし、受ければ延々と聞いてくる。 ロボットにでも対応させたいもんだな。」 川嶋も鬼瓦のような厳しい顔で記者を迎え撃つしか無いようだ。
宮城は何処へ消えてしまったのだろうか? 新聞も連日の大騒ぎである。
終いには笹尾に消されたのではないか?という噂まで飛び出してきた。 「消すって言っても何をどうしたらそんな発想になるんだい?」
「俺に言われても困りますよ。 推理作家じゃないんだから。」 「それもそうだ。」
宮城が消えてから一週間、島は大変な騒ぎを迎えている。 関係者以外は立ち入り禁止にしているのに、【知る権利】を振り翳すマスコミは土足で踏み込んでくる。
「今の取材状況は通常では考えられないことばかりです。 平常心を持って取材活動には十分に配慮してもらいたい。」
総務相までが懸念を表明する事態である。 いつか国民的大ニュースになってしまっていた。
驚きの情報が飛び込んできたのは十日ほどが経った金曜日の午後だった。 川嶋のスマホが鳴った。
「川嶋さん? スプリンターフラッシュが見付かりましたよ。」 「何処
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