純愛メランコリー
第一章 狂愛メランコリー

第1話


 アラームが鳴り響く。

 画面をタップして停止すると、ロック画面を見た。

 ────5月7日。午前7時。

「…………」

 理人(りひと)の死の悲しみに暮れながら、起き上がった私はベッドから下りた。

「……?」

 何だか息苦しいような気がする。

 思わず喉元に手を添えた。

 理人に殺されていた頃、記憶が見せてきた幻による苦痛と似ている。

 ループは終わっているし、もう理人もいないのに今さらなぜなのだろう。

 そんな首への圧迫感と同時に、倦怠感を覚えた。

 熱でもあるみたいに身体が重く、ついため息がこぼれてしまう。

『────さよなら、菜乃(なの)

 理人との思い出や彼の最期を思い出しては涙を流し、泣き疲れて眠るという日々が続いていたせいだろうか。

 あれからまともに眠れた日なんて1日もなかった。

 鬱々とした眼差しでスマホを見やる。

 当たり前だけれど、理人から着信やメッセージは届かない。

 私は制服に着替えると、軽く朝食を済ませて家を出た。



 学校へ行く前にコンビニでミルクティーを買う。

 その足で校門を潜ると、昇降口を抜け、階段を上がった。

 理人が隣にいることが当たり前になり過ぎて、そのことに慣れ過ぎて、一人を実感すると寂しくてたまらない。

 どの場所にも彼の幻影を探し、そのたび胸が締め付けられた。

 殺され続けるループからは解放されたけれど、本当にあの結末でよかったのか、それ以外の道はなかったのか、今でも考えてしまう。

 答えの出ないその問いは、いつも私の頭の中をぐるぐる巡って居座り続けた。



 屋上へ続く階段に差し掛かると、上段に向坂(こうさか)くんの姿が見えた。

 段差に腰を下ろしていた彼と目が合う。

「向坂くん……」

 朝から続く不調のせいか、彼のもとへ向かう足取りも重くなる。

「……おう」

 彼は相変わらずぶっきらぼうな態度だったが、どこか憂鬱そうにも見えた。

 私もまだ感情の整理がつかなくて、現実感が追いつかないせいで、不意に虚無に飲まれそうになる。

(それでも)

 この寂しげに褪せた世界で、私の心が押し潰されずに済んでいるのは、地獄のような3日間を繰り返した経験が糧となったからだ。

 必死でもがいて抗った。

 運命や自分自身を変えようと頑張った。

 それは何より、向坂くんという存在のお陰だ。

 彼が支えてくれるから、私は独りじゃない────。
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