純愛メランコリー
第三章 Borrowed Time
第5話
全身が鈍く痛んだ。
起き上がることさえ辛くてたまらない。
それだけでなく、頭痛や倦怠感は日に日に増していた。
苦痛の蓄積。
その中でも“昨日”の死の苦痛が、一番大きくのしかかってくるみたいだ。
憶測は正しいのだろう。
やっぱり、じわじわと本当の死へ近づいている。
────それでも。
「覚えてる……」
また、私は“昨日”を忘れていなかった。
向坂くんに殺されるのが嫌で、屋上から飛び降りて死んだこと。
彼が口にしていたループに関するヒントも。
(よかった……)
深く安堵の息をつき、胸の前で両手を握り締めた。
記憶さえ失わなければ、命を無駄にすることはないだろう。
考えなきゃ。見つけなきゃ。
記憶の法則も、結末を変える道筋も。
学校へ向かう前にミルクティーを買った。
向坂くんがいるから屋上へは行けないけれど、理人の存在を近くに感じていたくて。
色々こじれたけれど、私にとって彼が大事なのは今も変わらない。
叶うなら、空洞だらけの心の隙間を埋めて欲しかった。
自分の席についた私は、腕を握り締めるようにして俯く。
不安感に苛まれながらも、記憶をもとに情報を整理する。
今回のループは、理人に殺されていたときのそれとは色々と違っている。
最も重要なのは記憶のこと────。
向坂くんが言うには、死に際に鏡を持っていても保てない。
“昨日”はともかくその前は、彼には私の鏡を奪う機会があった。
それでも私は記憶を失わなかった。
あの状況で向坂くんが見逃すとは思えないし、記憶維持に鏡は無関係だという彼の言葉は、やはり正しいのだと思う。
私も、向坂くんでさえ知らない法則がある。
(……何なんだろう?)