純愛メランコリー
一方、ループのトリガーについては以前のそれと同じようだった。
すなわち、私の死。
向坂くんに直接手を下されなくても、私が死んだら時間が巻き戻る。
ただし、戻るのは2日前じゃない。
目覚めるのはいつも、その日の朝。
繰り返すのは3日間じゃなくて、今日一日だけだ。
そして────。
私は思わず頭を抱えた。
ずき、と痛みが揺れる。
時間が巻き戻って生き返っても、死の苦痛は身体に残って蓄積している。
(どうしたらいいんだろう……)
冷めきって温度のない向坂くんの表情を思い出す。
『愉しいから。それ以外ねぇだろ』
そんな利己的で残虐な動機に、私の命は弄ばれている。
“昨日”だけでも充分悟った。
何を言っても、彼には届かない。
向坂くんが求めるのは血と涙であって、私の声は雑音でしかないのだ。
それも以前のループとは違う。
救いようがない。
理人に殺されていたときは、その理由を知って、彼の想いに向き合って、ちゃんと話して分かり合えば、何とか出来るかもしれない、という可能性があった。
それは希望でもあった。
迎えたあの結末は、望んだものでもなければ残酷極まりなかったが、まだ受け入れるに足りた。
最初に私も彼を裏切ったし、彼の行動に相応の理由があったから、本来のあの結末にも納得がいった。
運命に従うべきだと思った。
けれど、向坂くんの殺しの理由がただの猟奇的な欲求と快楽なら、当然そんなふうには思えない。
何より私にはどうしようもない。
私が殺されるのに、合理的な理由も正当性もないのだ。
「…………」
向坂くんが満足するか飽きるまで、黙って殺され続けるしかないのかな?
先の見えない暗闇へ引きずり込まれそうになり、寒気がした。
肌が粟立つ。息苦しくなる。
今はいったい、何度目なのだろう……?