純愛メランコリー
第8話
────それでも、ふとしたときに今日の終わりを意識してしまう。
どんなに嫌でも、1日にも命にも限りがあるから。
「……もう、決めたの?」
蒼くんの声はあくまで優しい。
でも、どこか隙のなさがある。
何を聞こうとしているのかは分かった。
ループを終わらせるための、最終的な選択だ。
つまり────向坂くんを殺すか、私が死ぬか。
のんびりと考えあぐねている時間はない。
苦痛が身体を蝕んでいくから。
いつか死に追いつかれてしまうから。
私は、死にたくない。
(でも……)
だから向坂くんを殺す、という決断には至らない。至れない。
私は弱々しく首を左右に振った。
「出来ない……。向坂くんを殺すなんて」
今まで紡いできた日々や思い出を、ぜんぶ否定することになりそうで。
その選択はすなわち、彼を見限るも同然だ。
正論や理屈だけじゃ割り切れない感情が、胸の内に蔓延って絡みつく。
「じゃあ自分が死ぬの?」
「それは────」
「理人くんの死を無駄にして?」
はっきりと言われ、心臓が冷たく鼓動した。
あの日の出来事は今でも色濃く焼きついたままだ。
理人は自分の命をなげうってループを終わらせた。
私の幸せを願って。
なのに私が死を受け入れたら、理人の思いを無意味なものにしてしまう。
またしても裏切るようなものだ。
そういう意味でも、私は死ねない。
だけど────と、思考はずっと堂々巡りだった。
「……好きなの? 仁くんのこと」
蒼くんが真剣な声色で問うてくる。
どこか緊張しているようでもあった。
どう答えるべきか迷って、結局言葉が見つからなくて、気付けば頷いていた。
……好きなんだ。
私はまだ、向坂くんのことが。
何度残虐な本性の餌食になっても、想いは消えなくて。
以前の彼を知っているだけに、あんなふうに変わってしまっても、まだ信じようとしている。
そのことを自分でも改めて強く認識した。
……早く鐘が鳴って、夢が終わればいいのに。
魔法は一向に解けない。