純愛メランコリー
そう認識した途端、急速に心細くなった。
崖から真っ逆さまに突き落とされたみたいだ。
────私はずっと、闇の中で綱渡りをしていた。
前も後ろも見えなくて、長さも分からない。
正しい方向だって分からなかったけれど、信じて進むしかなかった。
今さら後戻りしても、得られるものなんてないから。
踏み外さないように慎重に進んできた。
それが出来たのは、不安定な綱の上を一緒に歩んでくれる、手を引いてくれる、蒼くんがいたから。
彼は危険なんて顧みずに前を歩いてくれた。
でも、知らないうちに蒼くんの手は離れていた。
私は辛うじて見えていたはずの足元すら見失った。
「ごめん……」
慌てて背を向け、自分の席に向かう。
蒼くんに頼るべきではない、という神様からのお告げなのかもしれない。
何だか“昨日”一日で色々と失った気分だ。
「待って。何かあったの?」
蒼くんに腕を掴まれ、足を止める。
振りほどこうと思えば簡単に出来るほどの力だ。
彼はやっぱり優しい。
選択を私に委ねてくれている。
私は唇を噛み締めた。
そうでもしないと、弱い気持ちがあふれそうになる。
「…………」
これがきっと、最後の機会なのだろう。
蒼くんを信じるかどうか、頼るかどうか、ループに巻き込むかどうかを決めるための。
本音を言えば、もう一度その手を借りたい。
全体重をかけて寄りかかりたい。
今頼れるのは、彼しかいない。
でも、ループに巻き込むということは、少なからず蒼くんの運命も変えてしまうことになる。
現に、死ななくていいはずの彼は一度死んでいる。
今度は向坂くんに殺される可能性だってある。
それに、もしループが終わったとしても、向坂くんみたいに豹変しないとは限らない。
死が身近になったせいで向坂くんの猟奇性が目覚めたのだとしたら、蒼くんにだって同じリスクはある。
(でも────)
『じゃあ、俺を理人くんだと思って』
『え』
『それなら甘えてくれるんでしょ。信じて頼ってくれるなら、その方がいい』
私は救われた。
蒼くんがくれた優しさや温もり、その気遣いに。
『ただ、本気で心配なんだよ。あんな顔されて、あんな現場見て、ほっとけるわけないでしょ』
本当に、何度も何度も救われた。
『だから俺も出来ることをしたいだけ。答えになってるか分かんないけど、それだけだよ』
彼の言葉が本心なら、私は────。