純愛メランコリー
「蒼くん……」
私は彼の手を握り、そっと振り向いた。
「助けて」
彼を信じる。
それ以外の選択肢なんてない。
*
以前のように私たちは裏庭へ出た。
これまでに繰り返した“今日”のこと、理人に殺されていた日々のこと、記憶のこと、私の気持ち。
何もかも包み隠さず打ち明ける。
当たり前だけれど、蒼くんはかなり衝撃を受けたようだった。
「死に返るループ……」
でも、真に迫る私の様子に気圧されたのか、すべてを事実として受け入れてくれたみたいだ。
巻き戻ったときに記憶を失わないためには自殺が必要だということまで話せば、蒼くんは心底困惑したように眉を寄せた。
「じゃあ俺、何で“昨日”……」
彼が何を言いたいのかは分かった。
忘れたくなんてなかったはずなのに、そして記憶の法則は私以外にも有効だと分かっていたのに、どうして“昨日”自殺しなかったのか、ということだろう。
「……ごめん、菜乃ちゃん。本当にごめんね」
「あ、謝らないで! 蒼くんは何も悪くないよ」
そもそも私が自殺を強要する権利なんてないし、そんなことするはずもない。
「……仕方ないよ。“昨日”は会えなかったから」
逆の立場だったら、きっと私も同じ選択をする。
相手を救うための自殺を受け入れられるのは、巻き戻るという前提があるからだ。
“昨日”の蒼くんは、私や向坂くんの生死が分からなかった。知りようがなかった。
もしループが終わっていたら────自殺は本当の死を意味する。
不確かな状況でそんな重大な決断なんて出来るはずない。
私でも誰でも絶対に怖気づく。
「決めた。俺、今日はもう菜乃ちゃんから離れない」
「え?」
意気込んだ蒼くんの言葉に私は戸惑いを隠せない。
「ずっと見守ってる。死ななければそれでいいし、もし死んじゃうようなら俺も一緒に死ぬ」
傍から聞いたらとんでもないことを言っている。
けれど、今の私には正直嬉しかった。
蒼くんの気持ちがひしひしと伝わってきて。
もちろん、どちらも死なないのが一番いいに決まっているけれど。
蒼くんは優しく私の手を取って握った。
「大丈夫。もうひとりぼっちになんてしないからね」