純愛メランコリー

 いったい、どこまで優しいのだろう。

 蒼くんの言葉を受け止めると、羽毛に触れている気分になる。

 最初はただ、ひとりぼっちが辛かっただけだった。
 誰かに縋りたかった。

 これまで寄りかかっていた理人を失って、心の拠り所だった向坂くんに裏切られて。

 その喪失感と絶望を、先の見えない非現実(ループ)の不安を、紛らわせてくれる誰かを求めていただけだったかもしれない。

 でも、誰でもよかったわけじゃない。
 今なら確かに言える。

 蒼くんだから信じられた。
 その手を取って、寄りかかることが出来た。

 閉じ込められたのが“今日”でよかった。

 そうじゃなかったら、蒼くんの優しさに出会えなかった。

 ────視線が交わると、彼は微笑んだ。

 春風に揺れる花みたいに、穏やかであたたかい。

 私は少し、彼に寄りかかった。

 こんなに誰かに近づいたのは、理人の他に初めてかもしれない。

 蒼くんは当たり前のように受け止めてくれて、ほんのり心がくすぐったくなった。



「わ、近くで通り魔だって。犯人は現在も逃走中……」

 スマホでニュース記事を目にしたらしい彼が呟く。

 ざわ、と胸が騒いだ。

 不穏だけれど、向坂くんとは関係ない……よね?



*



 適当な駅で電車を降りた。

 普段まったく足を運ばないような場所だし、きっと向坂くんもここまでは来ないだろう。

 来られないはずだ。
 私の行き先として考えつくとは思えない。

 伸びをした蒼くんが振り返り、首を傾げる。

「何か食べる? 早めの昼ご飯とか」

 私は眉を下げ、首を横に振った。

「大丈夫、あんまりお腹すいてない……。あ、でも蒼くんが何か食べたいなら────」

「ううん、俺もいい。適当に歩こ」

 やんわりと笑った彼に促され、足を踏み出す。

 本当に大丈夫かな?
 我慢してないかな?

 ぜんぶ私に合わせてくれている。

 でも、尋ねてもきっと“大丈夫”って笑顔が返ってくる気がする。

 私が体重を預けて寄りかかっても倒れたりしないように、無理をしていないか心配になる。

「蒼くん、あの────」

「ん? 大丈夫だよ」

 思った通りの反応ではあったけれど、迷いのないその返答と表情に悟る。

 私の不安は見透かされていた。

 頼ることと負担をかけることは違う。
 私の方が分かっていなかったみたいだ。
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