純愛メランコリー
最終章 純愛メランコリー

第13話




 ────夢を見ていた。

 繰り返す日々の中で失ったはずの、遠い幸せな夢。



『俺は諦めねぇからな。花宮がどう思おうと』

 向坂くんは優しい。

 記憶をなくして彼を信じられなくなった私が怯えて拒絶しても、守ろうとしてくれた。助けようとしてくれた。

『……頑張ってるよ、お前は』

 理人がいないと何も出来ないと思っていた私を肯定してくれた。
 前を向くきっかけをくれた。

『うまくやるんだろ? だったら、俺も遠慮しない』

 理人に殺される結末を変えようともがく私と、一緒に戦ってくれた。

『言えんじゃん、ちゃんと』

 私が一人で立ち向かった結果も、ちゃんと認めてくれた。

 そばにいてくれた。

 いつも、支えてくれていた。
 優しくて、勇気と自信をくれる向坂くん。

 私の中では、それこそが彼だ。

 それだけが、私の好きになった彼だ。



*



 知らないうちに涙を流していた。

 目を覚ました私は、濡れたこめかみを拭う。

 理人に殺されていた頃の、失ったはずの記憶がなぜか唐突に戻ってきた。

 改めて気が付く。
 どの3日間も変わらず、向坂くんは私の味方でいてくれた。

 やっぱり、そのすべてが嘘だったなんて思えない。

 このループにも、彼が私を殺すのにも、まだ私の知らない理由がある。

 何度裏切られても結局その考えを捨てきれなかったのは、少なからず“昨日”の向坂くんに違和感を覚えたからだ。

 その前にも一度、態度が変わった。
 保健室でのことだ。

 そこから少しずつ、変化が現れ始めた。

 あのときは演技をしているのだと思っていた。

 自身の“目的”を果たすために、優しいふりをして私を騙そうとしているのかと。

 だけど、その結論じゃ何だか腑に落ちない。

 ────例えばその目的が、私から情報を引き出すこと、だったら。

 そもそも彼にはそんな必要がない。
 だって、私を殺せればそれでいいのだから。

 私が何を見ようと、何を聞こうと、何を知ろうと、殺してしまえばリセット出来る。

 ループの中では、殺す側にいる向坂くんの方が優位な立場であって、ただ殺したいだけなら駆け引きもいらない。

 だから、そのための情報も相対的に必要ないのだ。

 そう考えると、ループの最初の方での向坂くんの態度は分かりやすいものだった。

 ただ純粋に、私を殺したくて動いているようだった。
 彼にとって必要ないから、私の言葉も一切届かなくて。

(……じゃあ)
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