純愛メランコリー

 私一人の命なら投げ出せる。
 これが運命なんだって受け入れる。

 でも、私は一人じゃない……。

 理人の思いや命をぜんぶ背負っている。
 それで今を生きられている。

 それに、無情な現実で、ともに戦ってくれる蒼くんがいる。

 だから死ねない、絶対に。

「じゃあ、仁くんを────」

 そう言いかけた蒼くんに、私は首を横に振った。

 向坂くんを殺すつもりもない。

 彼を殺すか自分が死ぬか、というループの真髄(しんずい)ともいえる選択はしない。

「どうするの……?」

「もう一度、向坂くんと話してみる。“昨日”はちゃんと話せなかったけど、今度は逃げない」

 蒼くんは表情を曇らせた。
 言いたいことは分かる。

 もう後がないと分かりきっている状況で、彼に会いに行くのがどれほど危険かは私も承知している。

 けれど、やっぱりこの方法しかない。

 分かり合うには、向坂くんの真意を知るには、真正面から向き合うしかないんだ。

 ただ怯えながら、わずかな希望に縋っていた以前とは違う。

 確かに“昨日”、私の知っている向坂くんが垣間見えたから。

 私の言葉はちゃんと届く。
 あのときの彼に戻ってくれる。

 いくらかそう確信出来るくらいに、私は強い覚悟を決めていた。

 ややあって、蒼くんは吹っ切れたように固い意思の宿る表情になった。
 そこに迷いは見られない。

「俺に出来ることない?」

 寄り添いながらも私の選択を尊重してくれる彼に感謝しつつ、私はやわく微笑んだ。

「見守ってて欲しいな。どんな結末を迎えても」

 たとえ、私が死ぬことになっても。
 あるいはもっと残酷な結末に変わっても。

「……分かった」

 彼はしっかりと頷いてくれた。

 どんなふうにこじれても、もうやり直すことは出来ない。

 精一杯抗って、それでも私が殺されるなら、それは運命として受け入れるしかない。

 そうして天国で理人に会えたら、叱って貰おう。

 でも、彼は優しいから、きっと微笑みながら許してくれるんだろうな。

 私はそう思いを馳せてから、蒼くんに向き直った。



「ありがとう、蒼くん。今までのことぜんぶ」

 どんな未来が待っていても、彼には生きていて欲しい。
 こんなループの犠牲になんてならないで欲しい。

 そして、今日が終わっても、どうか忘れないでいて欲しい。

 繰り返した「5月7日」の中で一緒に過ごした時間を。
 私がどれほど救われたか、ということを。
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