純愛メランコリー
第14話
ざぁ、と吹いた風に髪が揺れた。
ややあって、向坂くんが静かに口を開く。
「この5月7日、お前は死ぬんだ」
すぐには消化出来ない一言だった。
だって、それは────。
「向坂くんが殺すから、じゃないの……?」
そのせいで死ぬ1日をループしているんだ。
そう思ったけれど、彼は首を横に振った。
「違う。俺がそうする前から、お前は死んでた」
「どういう、こと?」
意味が分からない。
分からないのに、心臓が嫌な収縮を繰り返している。
「最初に死んだときのこと、覚えてるか?」
はっきりとは覚えていない。
でも、同じことを蒼くんに聞かれて、少しだけ思い出した。
『死ぬときは強く願えよ。“やり直したい”って……』
屋上で豹変した向坂くんに追い詰められて。
『これからは何度でも、何度でも何度でも何度でも……』
首を絞められて、死んだ。
『俺がお前を殺してやる』
きっと、それが最初。
初めて向坂くんに殺されたときの記憶。
「断片的には覚えてる。屋上で殺されたんだよね? 私……」
「ああ、確かにそれが最初だ。俺が殺したのは」
「え?」
どういう意味だろう。
何だか嫌な予感が膨らんでいく。
「それ以前にもお前は死んでるんだ。何度も何度も、ありえねぇような死を繰り返してたんだよ」
その言葉に、まったく心当たりがないわけではなかった。
“昨日”だってそうだった────。
偶然とは思えないような出来事のせいで、危うく死にかけた。
まるで私が殺されるシナリオが出来上がっているみたいに、不自然な状況に晒された。
他に誰もいないのに、通り魔の男だけがあの場にいて。
(もしかして)
あのとき過ぎった記憶。
落ちてきた鉄板に押し潰されて死んだ記憶は、向坂くんに殺される以前のもの……?
このループは必ず私が死ぬように出来ている。
それは“昨日”の時点で思い知った。
────けれど。
「どうして……?」
何で私が死ぬの?
これまでは、向坂くんが残忍な欲求を満たすためだけに繰り返しているのだと思っていた。
でも、違った。
向坂くんが殺すより先に私が死んで、ループが始まっていたのなら。