純愛メランコリー
向坂くんはそっと身体を起こした。
「……悪かったな。散々怖がらせて、苦しめて」
今回のループでは確かに、向坂くんが怖かった。
彼の思惑通り、彼を悪者だと思い込んでいた。
でも、その真意には悪気なんて一つも含まれていなかった。
私を救うために奔走して、奮闘してくれていたのだ。
「ううん。……ありがとう」
もし、逆の立場だったら────。
私に同じ選択が出来るだろうか。
殺されるのも、死ぬのも辛かった。
痛くて、苦しくてたまらなかった。
でも、向坂くんだってきっとあらゆる葛藤を乗り越えて、私とはまた異なる苦痛を抱えていたはずだ。
彼の判断が間違っていたとは思えない。
わずかな沈黙が落ちた。
心電図モニターの規則正しい音だけが鳴っている。
「……あのさ」
彼がどこか言いづらそうに口を開いた。
「橋の上でお前が言ってたこと、だけど」
どくん、と心臓が跳ねた。
痺れるほど鼓動が加速する。
『私、向坂くんが好き』
みなまで言われなくても、その告白のことだと察しがついた。
かぁ、と頬が熱を帯びていく。
今考えると、あんなふうにはっきりと思いの丈を告げられたことに驚きを隠せない。
照れくさくて、恥ずかしくて、居心地が悪くなる。
向坂くんはどう受け止めてくれたんだろう。
聞きたいような、聞きたくないような……。
思わず緊張してしまいながら、私は「うん」と頷いて続きを待った。
「俺────」
そのとき、こんこん、と扉がノックされた。
図らずも彼の言葉を遮るように。
はっとする。
二人してそちらを見やった。
……何だか先ほどから、色々と間が悪い。
蒼くんも何かを言いかけていたけれど、結局聞けずじまいだ。
「どーぞ」
向坂くんがいつものように気だるげに返事をした。
私は高まった緊張を追いやるように、小さく息をつく。
スライドして開かれた扉から顔を覗かせたのは、蒼くんだった。