純愛メランコリー
最終話
鳴り響くアラームを止め、そっと目を開けた。
たくさん泣いたせいで瞬きが重い。
あの後、病院からどうやって帰って来たのかも覚えていない。
受け入れようとしても、未だに信じがたくて。
(向坂くん……)
本当に死んじゃったんだ。
心にぽっかりと空いた空洞に、冷たい風が吹き抜ける。
この喪失感が、深い悲しみが、埋まる日は来るのだろうか。
彼のいない世界で、私は生きていけるのかな?
ベッドから下り、学校へ行く支度を整える。
暗闇に閉じ込められ、何もかもから置き去りにされているみたいなのに。
どんなことがあっても時間は私を待ってくれない。
ループから抜け出したからか、嘘みたいに身体が軽くなっていた。
死の苦痛から解放されたのだ。
皮肉なものだけれど、向坂くんのお陰なのかな。
彼がすべてを持って行ってくれたのかもしれない。
鬱々と沈むような気持ちで教室に入る。
机に鞄を置いたとき、蒼くんが歩み寄ってきた。
「大丈夫?」
そんなわけがなくても、そう聞かれるとどうしてか首を縦に振ってしまう。
今さら蒼くんに強がる必要なんてないのに。
「うん……大丈夫だよ」
「本当に? そんなはずないよね……、急に理人くんがあんなことになっちゃって」
平気を装おうと無理に浮かべた笑顔が引きつった。
向坂くんじゃなくて、理人?
……ううん、それ以前にこの台詞は────。
「無理しないでね。菜乃ちゃんまで倒れたら大変だし」
唖然とした。
呼吸すら忘れ、信じられない気持ちで彼の双眸を見つめる。
「……どうかしたの?」
案ずるように首を傾げる蒼くんに何か言おうとしたとき、カシャン、という軽い音が耳に届いた。
その出処を見やれば、女の子のシャーペンが床に落ちたところだった。
そして、スマホを囲む男の子たち。
別の彼にぶつかって、水がこぼれる────。
「あ、蒼くん……。今日って何日!?」
勢いよく彼の上腕を掴み、縋るように尋ねた。
「え? えっと、7日かな」
やや気圧されながらも蒼くんはそう答える。
それを聞き、思わずたたらを踏んだ。
(まだ……)
まだ、今日は終わっていない。
明日は来ていない。……ということは。
「向坂くん……!」
彼は生きている。
今日が終わっていないのなら、彼が亡くなった事実も消えた。
蒼くんの困惑したように引き止める声を背に、私は教室を飛び出した。