年下の幼馴染くんはどうしても私を譲れない

第4話 幼馴染なんて呪いだな

◯学校・教室の自席(放課後)

教室の黒板に「テストまであと6日」と書かれている。

テスト週間に入り、ゆめかが放課後1人、自分の机で試験勉強をしていると、いつの間にか寝てしまっていた。

ゆめかは中学時代のとある記憶を夢で見る。


ーー(夢)中学時代ーー

暗闇。

ボロボロになって地面に倒されたゆめか。

突風が吹いて、目を閉じたゆめかが再び目を開けると、飛び込んできたのは、眩しい光と大きな背中。

ゆめか(朦朧とする意識のなかで思ったの)

ゆめかモノローグ(守られた世界)
(なにも見えないし聞こえない)
(あなた以外)


ーー(夢終了)ーー


ゆめかは、ハッとして目覚め、そこで夢は終わった。

ゆめか(…夢)


ゆめかが教室の掛け時計を見ると、時計の針は17:00を指していた。


ゆめか(15分も寝ちゃってた)

ゆめかがまだ寝起き特有のふわーっとした気持ちでいると、教室のドアから椎名が入ってくる。

椎名「あれ、神谷さん残って勉強?」
ゆめか「あ、うん」

椎名は自分の机の中から一冊の教科書を探して取り出すと、ゆめかの顔を見て、自分の頭を人差し指でトントンと叩きながら、からかうように言った。

椎名「嘘、寝てたでしょ?寝ぐせついてる」
ゆめか「ええっ?!//」

ゆめかは慌てて両手で髪をぺたぺたと整える。
椎名はわたわたしているゆめかを面白そうに眺めていたが、ふと思いついたように言う。

椎名「あ、そうだ。今からクラスの奴ら何人かでファミレス勉強会しようってなってるんだけど、神谷さんも来る?」

ゆめか「ファミレス勉強会……」

ゆめか(…実はちょっと憧れてたりして。青春って感じで…)

ゆめかは分かりやすく目を輝かせてワクワクを隠しきれていなかった。

ゆめか(でも、椎名くんの友達ってことは、話したことない人たちだよね…)

ゆめかは不安もあり、しゅんとなる。

椎名(ほんと…っ、全部顔に出る)

椎名が手の甲で口元を押さえてひとしきり笑ったあと、安心させるように付け加える。

椎名「大丈夫だよ、ちょっとうるさいかもだけどみんな良い奴だし、神谷さんと話したがってるし」

ゆめか「え、そうなの?」
ゆめか(クラス替えしてから仲良くなる機会なかったし、それはちょっと嬉しいかも)

椎名「うん。筆頭は俺だけど」

ゆめか「えっ、と…」
ゆめか(これは…、どういう顔すればいいの?!)

冗談とも本気とも読めない表情でそう言った椎名に困ったゆめかは、話を切り上げるため立ち上がる。


ーーガタッ(ゆめかが席を立つ音)

ゆめか「では、お邪魔します…っ」

ゆめかが戦いに出るような顔で宣言し、また椎名はツボっている。

椎名「…っうん、そんな気合い入れなくてもw」

椎名「じゃあ、行こっか」

ようやく笑いが収まった頃、椎名がそう言って、二人は教室を出た。

◯ファミレス(17:30頃)

ゆめかと椎名は、すでにファミレスに集まっていたクラスの男子2人、女子2人の席に合流する。

女子生徒A「あ、結仁きた~!」
男子生徒A「遅いぞー…って、えっ?神谷さん?!」
男子生徒B「え、うそ、まじ?」
女子生徒B「あたし話してみたかったんだよね~!こっち座って座って」
ゆめか「お隣失礼します…っ!」

わいわいと勉強会がスタートし、ゆめかは自力で勉強をしていたが、その他のメンバーは主に椎名が勉強を教える椎名塾のようなものとなっていた。


男子生徒A「っだーー!わかんねぇ!!」
椎名「仕方ないなぁ、どこ?」
女子生徒A「あたしもぉ無理…頭パンクする」
椎名「ここだけ覚えてたら赤点回避確実」


ゆめか(椎名くん何でも出来てすごいな…)
ゆめかが勉強の手を止めて、感心して椎名を見ていると、それに気づいた椎名が声をかける。


椎名「ん?神谷さんも分かんないとこあった?」
ゆめか「あ、ううん。すごいなって思って」
椎名「すごくないよ。分かんないことだらけ」
ゆめか「え?全然そんな風に見えないよ」

椎名「んーじゃあ神谷さんに聞いていい?」
ゆめか「椎名くんに分からないこと、私に分かるかなぁ…」

椎名は机の上に置いてあったゆめかのスマホを指さして聞く。


椎名「その人、彼氏?随分長いことコールしてるけど」


サイレントにして椎名の方を見ていたから全く気づかなかったが、画面が明るく光っていて【誉】と表示されていた。
ゆめかが気づいた時、ちょうどコールが切れた。


ゆめか「分からないことって、まさかそれ?椎名くん、またからかってるでしょ!彼氏いないって言ったのに」


ゆめかは、怒っているには可愛すぎる顔で「かけ直してくる」と言うと、店の外に出る。

ゆめかが外した席では、椎名が興味津々な友人たちに質問責めに合っていた。


女子生徒A「なんかあたしらと扱い違うじゃん?」
男子生徒B「なにお前、神谷狙い?」
椎名「そういうんじゃないど…」
女子生徒A「ないけど…?」
椎名「可愛いよね、神谷さん。素直っていうか、全部顔に出るしさ」

椎名はニコニコと胡散臭い顔で笑っている。

男子生徒A「お前、自分がイケメンだから可愛いって言えるんだよ。俺は緊張して直視できなかった」
女子生徒B「優しいし女神級だよねー」
男子生徒B「でもあの電話の感じ、男だよな?」

◯ファミレスの外(夜、19:30頃)

ゆめかが電話を折り返すと、すぐに繋がる。

誉「はい」
ゆめか「あ、誉?ごめんね出られなくて」
誉「や、別に大したことじゃないから」
ゆめか「急用だったらいけないと思って。ちなみに用事何だった?」

チリン(ファミレスのドアが開く音)

誉「…いま外?」
ゆめか「うん。クラスの人とファミレスで勉強会してるんだ」
誉「そう」
ゆめか「……?」
誉「あした、土曜日だしテスト勉強一緒にどうかと思って」
ゆめか「1人だとだらけちゃうもんね。いいよ、どこでやる?今日はバスケ部で図書館だっけ」
誉「あいつら図書館向いてなさすぎて全然進まなかった」
ゆめか「ふふ、図書館うるさくできないもんね」
誉「うん、だから俺の部屋で」
ゆめか「………」

誉はさらっと言ったけれど、ゆめかは一瞬考えてしまった。

ゆめか(いや、別に幼馴染の部屋に行くのは普通だよね?勉強だし)

誉「先輩なんだから、分かんないとこ教えてね?」
ゆめか「が、がんばります…」
ゆめか(誉のが頭いいのに)

誉が空気を変えるように言った一言で、ゆめかはなぜかホッとしてOKという流れの返事をした。


◯帰り道・ゆめかの家の前(20:00)

誉と電話したあと、ファミレス勉強会はお開きになり、解散する。

椎名の帰り道の途中にゆめかの家があるとのことで、椎名はゆめかを家まで送る。

ゆめか「あ、家ここです。今日は誘ってくれてありがとう」
椎名「あいつら騒いでたから集中できなかったかもしれないけど…」
ゆめか「ううん、楽しかったです」
椎名「そ?なら良かった」
ゆめか「椎名くんも気をつけて帰ってね、送ってくれてありがとう」

ゆめかがそう言ったとき、椎名は上を見上げていて、隣の家の窓際にいる誉と目が合っていた。誉はすぐカーテンを閉めて部屋に消える。

ゆめか「……椎名くん?」
椎名「ああ、ごめんごめん。それじゃまた、月曜日に」
ゆめか「うんまたね」


◯誉の部屋(土曜日の昼すぎ)

次の日、土曜の昼下がり。
ゆめかは約束通り、誉の家に行く。


ーーピンポーン(家のチャイムの音)

ガチャ、という音と共に玄関から出てきたのは、誉だった。奥から誉の母親も顔を出す。

誉「ん、入って」
誉のお母さん「ゆめかちゃん、いらっしゃい。久しぶりね」
ゆめか「お久しぶりです、お邪魔します」

ゆめかはぺこっと頭を下げると、誉に続いて、階段を上がり、2階の奥にある誉の部屋に向かう。

ゆめか(久しぶりに入るな…)

最後に来たのは2年前くらいだろうか、相変わらず物が少なくシンプルで、ゆめかの記憶とそう変わらない部屋だった。

誉「適当に座って待ってて」

誉はそう言って一階に飲み物やらお菓子やらを取りに行く。ゆめかはただ座って待つのもそわそわするので、勉強道具などを準備しつつ待つことにしたが、先日の麗美の言葉が脳裏をよぎる。


麗美の言葉《好きなんですよね?異性としてです》
《橘高誉のこと、考えてみましょう》


ゆめか(緊張する必要ないのに、麗美ちゃんのせいだよ~~。でも誉と距離置こうとしてるのに、何だかんだ離れられてないのは、私が甘いんだろうなぁ)

ガチャ、という音がして誉が戻ってくると、ゆめかは誉を小動物のようににらむ。

ゆめか(いやでも、半分はこの男が悪いっ)
誉(え、なんで睨まれてんの)


そうして、テスト勉強が開始となったが、基本的に2人とも1人で黙々と勉強できるタイプだったため、気づけば集中して2時間近く経過していた。


誉「んー疲れた、終わりっ」

誉が伸びをしながら言う。

ゆめか「集中しちゃった。ていうか、誉やっぱり分かんないとこないじゃん」
誉「なに、ほんとに教えてくれる気だった?」
ゆめか「そりゃ誉のが頭良いのは知ってるけど、ちょっとは頼ってくれるかなーとか考えてたよ?」

誉「あれは部屋に来るのにゆめかが警戒しないように、って思って言っただけだったけど、そんな可愛いこと考えてくれてたなら後輩の特権使えば良かったかなぁ」

誉は机にだらっと頬杖をついて、上目遣いでふざけたことを言っている。

誉「…ちょっとしてたでしょ?警戒」
ゆめか「うっ」

ゆめかは警戒してました、とも言えず言葉に詰まる。

誉「なんもしないよ、ゆめかが嫌がることは」
ゆめか「…うん、分かってる」

誉「でもごめん、俺の部屋でって言ったのは俺のエゴだったかも」
ゆめか「いや、全然謝ることじゃ…」

誉はさっきよりも体勢を崩して顔を机に突っ伏しているため、表情は見えなかった。

誉「ゆめかがクラスの奴らとファミレスで勉強してるって聞いて嫉妬した」
ゆめか「え」
誉「学年違うからさ、俺は2年の勉強教えたりできないじゃん」
ゆめか「そんなの気にすることないのに」

珍しく弱気な誉に、ゆめかは机から身を乗り出して近づいてしまった。

誉「家まで送ってきた男も知らない奴だった」

誉(なにガキみたいなこと言ってんだ)

そう言って、誉は近づいてきたゆめかの指に、自分の指を絡めるようにして捕まえる。


誉「そうやって俺の知らない世界があるんだよなって思ったら、閉じ込めたくなった」

誉(独占欲丸出しでダサすぎる)

誉「…かっこ悪いって思う?(小声)」
聞かれたくないのか、聞いてほしいのか、自分でもわからないといった風で、独り言のように誉が言う。

ゆめかは、顔を上げた自信なさげな表情の誉と、机を挟んで至近距離で目が合う。


ゆめかは聞こえていないふりもできたけれど、ひどくゆるく絡められていた指を、自分でぎゅっと深く結んだ。

ゆめか「思わないよ」

ゆめか(思うわけない)


ーー(回想)中学時代ーー

倒れたゆめかの目に飛び込んできたのは、眩しい光と見上げるほど大きな背中。

誉「俺の大事な幼馴染に手ぇ出してんじゃねーよ」

ゆめか(朦朧とする意識のなかで思ったの)

ゆめかモノローグ(私とは住む世界がちがう)
(君は無限にかっこいい)


ーー(回想終了)ーー

ゆめか「ヒーローだもん」
誉「ヒーロー?」

誉が眉をひそめて訝しむので、ゆめかは笑顔で答える。

ゆめか「ふふ、こっちの話」


ゆめかモノローグ(この年下のヒーローは)
(大事な幼馴染だから)
(守ってくれるんだろうか)
(閉じ込めておきたいんだろうか)
(珍しく本音を見せられた気がして)
(ふと、知りたくなってしまった)


ゆめかは、誉への気持ちに向き合うことを決意して、未だに沈んでいる誉の額に、目を閉じて自分の額を重ねる。

ゆめか「待ってて」
誉「…なにを?」

誉は額を離して、また眉を寄せて訝しむ。

ゆめか「こっちの話!」

どこか吹っ切れたような笑顔のゆめかを前にして、誉は仕方ないという表情で優しくゆめかを見ている。

誉モノローグ(こんなことでも嬉しくて)
(だけど絶対に譲れないから)
(何も告えないしできないし)

誉はゆめかから離した額をゆめかの肩に乗せる。
誉「疲れた、そっち行ってい?」

誉モノローグ(これがいまの精一杯)

ゆめか「え、だ、だめ!」

誉(はぁ、本当に)
誉モノローグ(幼馴染なんて呪いだな)

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