聖女さまがいっぱい!(聖女ショートショート集)
 ある王国に、一人の王子がいた。
 王子には憧れがあった。
 この国には聖女伝説がある。

 壁画や天井画に描かれる聖女はいつも美しくたおやかに微笑んでいた。

「お母様、僕ね、夢があるんだ」 
「まあ、何かしら」

「僕ね、大きくなったら聖女様と結婚するんだ」

 つい最近まで「お母様と結婚する!」と言っていた王子なのに、母である王妃は少しさみしくなった。
 だがこれも彼の成長である、と思い直す。

「素敵な聖女様と結婚してね」
 王妃が言うと、王子はにっこりと満面に笑顔を浮かべた。


 * * *


 王子が17歳になったある日、神殿からのお告げがあった。
 近々、満月の夜に聖女が現れるというのだ。

「ようやくか。長く待ったものだ」
 幼き日より胸をはせた聖女に、ようやく会える。
 彼の胸は否応なく高鳴った。

 伝説では聖女は金髪で青い目をしており、それはそれは美しいのだという。だから壁画ではいつも金髪碧眼の繊細な美少女が描かれていた。
 心もまた美しく清らかで、周囲の人を虜にしてしまうという。
 また、聖女はその知識や力で国を正しく導き、繁栄をもたらすという。


 だから彼は聖女に認めてもらえるように努力を続けてきた。
 知力も武力も心根も、聖女の愛を受けられるほどにならなくては、と。

 容姿だけは生まれついてのものだから変えられない。物語に登場する王子と違って彼の外見は凡庸だった。

 ならば、と雰囲気だけでも良くするように努め、清潔感にも気を配った。その結果、貴族令嬢から秋波を送られる程度にはなっていた。
 そして念願かなってようやくその時が来たのだ。
 彼の胸は期待で膨らみ続けた。

 果たしてその満月の夜、神殿に一人の女性が現れた。
 女性は翌日には聖女と認定された。
 王子は大喜びで会いに行き、愕然とした。

「おばあちゃんじゃないかあ!!」

「何ですかあなたは。おばあちゃんでも、聖女じゃよ」
 おばあさんは自らそう言った。

 金髪でも青い目でもなく、白髪にグレーの目をしていた。
 過去最高齢の67歳の聖女だった。 

「やれやれ、この年で聖女として神に呼ばれるとはねえ。王子様が結婚してくれたりするのかしらねえ」
 彼女は王子にウィンクした。

「いやだあああ!」
 王子は膝をついて泣き叫んだ。

「冗談もわからずに、なんて失礼な王子様だよ」

 聖女――いや聖老女はプリプリと怒り、彼女より10歳若い大神官が懸命になだめた。

 聖老女は聖女としての力を遺憾なく発揮して国を導き、おばあちゃんの知恵袋で人々を助けた。

 王子は、二度と聖女は現れるな、と祈った。

 その後、彼は隣国の王女と結婚して平和に暮らした。



 〜 終 〜

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