クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。


〇休み時間の屋上。周りには甘音と文乃以外は誰もいない。

文乃(……ど、どうしてこうなったのー?)
(……何? ひょっとして告白? いやいや、小説の読みすぎでわけわからなくなってきた……!)

 すでに頭がキャパオーバーな文乃を尻目に、甘音が向き直り。

甘音「あのさ……」
文乃「……は、ハイっ!」

 高鳴る鼓動。文乃の胸がバクバクなる中で、甘音がゆっくりと口を開き。

甘音「……柿坂、……昨日の小説、ネットに上げてる?」
文乃「……え?」

 思わず文乃の身体がガクンと崩れ落ちる。

文乃(……こ、告白じゃなかった。や、当たり前だけどね。…………そんなことよりも!)

文乃「……しょ、小、説……?」
甘音「うん」
  「……それで、ネットには?」
文乃「……ハイ。一応……」
甘音「――タイトルは?」
文乃「え゛!……それはちょっと……」
甘音「教えて」

 なおも食い下がってくる甘音に、文乃は困った顔をして。

文乃「……えっと、その、……実は、小説のことは、学校であまり知られたくなくて……」
甘音「……そうなの? でも、俺、どうしても知りたい」
文乃「!」

 至近距離で見つめられ、文乃は思わず赤面した。しかも相変わらず一切のおふざけも感じさせない真面目な視線。堪忍した文乃は精いっぱい視線を逸らし、

文乃「……あの………ええと……」

  「……び、『美形な幼馴染に甘やかされて、溺愛すぎて溺れる放課後』です…………」

甘音「…………」

 顔を真っ赤にして、文乃は消え入りそうな声で言った。

文乃(……あ、新手の拷問か何かだ……!)

 しかし。甘音はなぜか目を輝かせて、

甘音「……やっぱり」
文乃「?」

 甘音がポケットからスマホを取り出す。何かと思っていると、小説投稿サイトが表示された画面を見せてきて。

文乃(あれ……、これ、私が投稿してる『山ぶどう文庫』?)

甘音「昨日、……実はネット上で見つけて、もしかしてと思って読んだ」
  「……合ってる?」

 甘音のスマホにさらに注目すると、そこには文乃の投稿したネット小説『美形な幼馴染に甘やかされて、溺愛すぎて溺れる放課後』のトップページが表示されていた。

文乃「……あ、ってます……」
甘音「――『抹茶ココア』さん?」
文乃「う……ハイ」

 目を逸らして答えると、甘音は心なしかさらに目を輝かせて、

甘音「……面白かった」
文乃「……えっ!」
甘音「他のヤツも……どれもよかった」
文乃「ほ、他のヤツって!?」
甘音「あれから、キミの作品、――全部読んだ」
文乃「……ぜっ! んぶ? ……ぜんぶ!?」
甘音「うん。全部読んだ上で、思ったんだ」
  「なんというか、……すごく……」

 甘音が目線を下に落としつつ、心底愛おしそうな顔をして。

甘音「……好き――」

文乃「…………」

  (……ああ、本当に。……甘音くんって)
  (確かに、嬉しい。こんなに面と向かって、自分の小説を褒められたことなんてなかったから。作家としては、それだけでも飛び上がるほど嬉しいのに、……でも)

文乃「…………」

  (そんなに真剣な瞳で言われたら、……勘違いしそうになる)

文乃「……それは、……ありがと」

甘音「……うん。……控えめに言って、天才だと思う」
文乃「いやいやッ! それはさすがに言い過ぎだよっ?」
甘音「ううん」

 慌てる文乃を尻目に、甘音はゆっくりと手を伸ばし、文乃の乱れた髪をそっと整えて。

甘音「……天才」


 目を線にして綺麗に笑う甘音に、文乃はため息をついた。


文乃(……やっぱり、……甘音くん、頭、おかしい)




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