クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。


〇翌朝。始業間際の学校の廊下。遅刻ギリギリ、早足で登校してきた甘音を、文乃が待っていた。

文乃「あ、あの、甘音くんッ!」

甘音「……柿坂? どうしたの? 柿坂から話しかけてくれるなんて、珍しいね」
文乃「……ええと、あの、甘音……くん、よかったら、……あの――」

 しかし、ちょうどその時、無残にも始業のチャイムの音が鳴り響く。

文乃「!」
甘音「……柿坂、遅刻するから、とりあえず動こう」
文乃「……」
甘音「……ほら、急げばまだ間に合――」

文乃「……ッ」

 駆け出し始める甘音の制服の裾に、文乃がギュッと手を伸ばして。

甘音「……!」

 掴んだ手の必死さが、甘音の足を止めた。

文乃「……だ、大事な話があるのッ」

甘音「…………ッ!」

文乃「……どうしても、甘音くんと、だから……」

 振り返った甘音と、目が合う。背後では未だチャイムの音が鳴り響いている。

 文乃の手をゆっくりとほどいてから、両手で掴んで甘音が向き直る。

甘音「……なら、今、ここで聞く」

文乃「あ、で、でも遅刻が……後でも」

甘音「関係ない。大事だから。……それ以外のことなんてどうだっていい」

 チャイムの音が消える。
 そこでようやく文乃は我に返って、自分たちが注目の的になっていることに気が付く。見回すと誰もがもう始業時間だというのに、真っ赤な顔で固唾を飲み、興奮した様子で2人の挙動を見守っていた。

文乃(……え、あ、どうしよう! なんか必死過ぎて変な雰囲気に……ッ!?)

 我に返った途端に真っ赤な顔がさらに赤くなる文乃。

文乃「あ、や、今じゃ、ちょっと、その……後で、聞いてほしくて……勢いあまってごめんなさ……」
甘音「…………わかった。でも俺、今日、仕事で中抜けなんだ。……そうだな……じゃあ」


 甘音の綺麗な流し目が、文乃を捉えて。



甘音「……一緒に帰らない?」

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