クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。
〇見知らぬ高層マンションの入り口。甘音の後ろで、文乃は立ち尽くしていた。

文乃(なな、ななな、なああ―――――!?!?)

 甘音が手慣れた手つきでオートロックの鍵で開けて、自動ドアが開く。

文乃(いきなり「家」!? 何考えてるの甘音くんー!!)
(も、もしかして……身体が目的――!?)

守るように腕を抱いて、自分の身体を見下ろす文乃だが。

(……ないな……。幼児体型だし……)

甘音「――柿坂? どうしたの、へんな顔して?」
文乃「……ッ! ……な、なんでもない……」
甘音「? ……じゃあ、どうぞ」

 エスコートされるがままエレベーターに乗り込み、ドキドキが止まらない文乃。あれよあれよという間に、「甘音」と表札のかかった一室の前に移動してしまう。

文乃「あ、あの!」
甘音「……何かな?」
文乃「ご、ご両親は今日、お家にいるのッ?」
甘音「…………」

 一瞬ですっと甘音の表情が硬くなった。

甘音「……いないよ?」

文乃「!」

 その言葉が示す事実に、文乃が赤い顔で口を開けたまま固まる。

甘音「……ここには、住んでないから」
文乃「……! ……そうなん……」
甘音「――ダメ、かな?」

 窺うような、感情の読めない妖艶な表情で甘音が言う。

文乃「……あ、……や」
甘音「……」
  
 視線が合ったまま、外れない。

文乃(それって、つまり……二人っきり……!?)

 想像した文乃はドキドキが止まらなくて。

文乃「あ、……あの……私、やっぱり……」

 その時、ガチャ、と扉が開く。
文乃「!」

 不意に扉の中から出てきたのは、メンズものTシャツ一枚という露出度高めな服装のピンク色の派手髪ギャルだった。

ギャル「あれぇー、とーる、帰ってきてたんだ? 今なんじー? ふぁああ」

 目を擦りつつ、あくびをするギャルは相当の美少女だった。ぱっと見は文乃と一、二年年上くらい。スタイルも手足がスラっとしているのに、出るとこは出てる理想的なバランス。思わず見入る文乃だったが、

ギャル「……とーるー! つかれたよぉ……」
文乃「!? 」

 ギャルがその綺麗な両腕で甘音の腰に手をまわし、背中に抱きつく。そのまま甘音の背中に鼻をすりすりし、

ギャル「あー、とーるの匂いー。癒しー、補給されるー、へへ……」

 突然のことに驚いて固まる文乃。甘音は少しだけ顔をしかめて。 

甘音「……急に抱きつかれると、邪魔なんだけど?」
ギャル「えー、いいじゃんいいじゃん。オール明けくらい好きにさせてよ」

 ぎゅーと一層腕に込める力を強めたギャルに、甘音がやれやれ、という表情をする。呆気に取られて言葉が出てこない文乃だったが。

文乃(……ひ、一人暮らしのマンション、年上のかわいい女子。呼び捨て。スキンシップ。よく見ると、着てるTシャツも甘音くんサイズ……)

文乃(……こここ、これはどう見ても……!)

ギャル「……ん?」
   「なに、この子?」

文乃「――あ……ッ!」

 急に向けられるギャルの視線に、文乃は思わず身体を硬直させ、テンパった様子で口を開く。

文乃「……はははじめまして柿坂文乃です!! 甘音くんとはただのクラスメイトです!!」 
ギャル「……」
文乃「そそそれでその! しょ、初対面で大変失礼かと思うんですが、どどど、同棲されてるんですかッ!?」
  
  赤面して目を回しながら質問する文乃に、ギャルが「へへッ」と微笑み。 

ギャル「……そうだけどー?」
文乃「や、やっぱりッ……!! そうだと思いました!! ……ごめんなさい急に邪魔しちゃって!! ……じゃあ、私かえりますッ!!」

甘音「――ちょっとちょっと! 柿坂待って!」

 Uターンして帰ろうとした文乃の手首を、甘音が掴んで引き留める。

文乃「……ふぇ?」
甘音「……確かに一緒に住んでるけど、……『姉』だから!」
  
文乃「……え?」

 キョトンとした顔をする文乃。その様子を満足そうに眺めて、ギャルこと、甘音の姉が可愛くピースしてほほ笑む。

ギャル「……いぇーい☆」



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