クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。


〇放課後。1C教室。

文乃「――ハッ!?」

 文乃が周囲を見回すと、すでに薄暗くなっていた。どうやら寝過ごしてしまったらしい。

文乃(や、やっちゃったーッ!)

 慌ててスマホを確認すると、

メッセージ『マリン:ごめん、何度も起こしたけどダメだった。部活行ってくる、許せ☆』

文乃(……マリンちゃん~、ウソでしょ……って)

 見ると時刻はすでに18時を過ぎている。

文乃(わー!? わー!? 更新!どうしよどうしよ! とにかく今すぐにでも書かなきゃ! って……あれ?)

 人が少なくなった放課後の教室。文乃から少し遠い斜め後ろの席には、同じく寝過ごしたらしい誰かが寝ている。って、この人物はまさか。

文乃「……あ、甘音……くん?」

 思わず声に出てしまった。それでも目を瞑ったまま微動だにしない甘音に、気が付くと文乃は近づいていた。

文乃(……まだ、寝てるみたい。そういえば、この人、いつも眠そうだよね……)
文乃「…………」

文乃(髪の毛、ツヤツヤだなぁ……。お肌も女の子みたいに綺麗……って)
文乃(見惚れてる場合じゃなかったッ! 執筆、執筆ッ!)

 後ろ髪ひかれる思いをなんとか断ち切り、自分の席に戻ってノートPCとマウスを取り出す。

文乃(どうせ甘音くん、まだ寝てるし。一分一秒が惜しい身としては、背に腹は代えられないもん)

 そのままカタカタと執筆する。いざ初めてしまえば、先ほどのドキドキが嘘のように小説に没頭することができた。ただ、肝心の執筆はというと、昨晩に引き続き、安定に行き詰っていた。

文乃「……んくー!」

 頭を抱えて思わずわしわしと掻きむしる。

文乃(どうしても、ここのセリフが腑に落ちないんだよなぁ……、ダメだ、これも違う)

 文字を打っては何度も消しを繰り返す。疲れた目を擦りながら、

文乃(最近、中々上手くいってない。自分で読み返しても今一つ。もちろんPVも伸びてない)
(このままスランプから抜け出せないなら、正直、いつまでも書くモチベーションを保てる自信がない。……なんて)
(……なに、弱気になってるんだろう。今がんばらなきゃなのに……ッ)
(……あ、これならどうかな?)

画面の文章『……俺たち、』

 カタカタと、ようやく絞り出したヒーローの台詞をタイプしていた、その時だった。

甘音「――『俺たち、友達同士じゃなかったの?』」
文乃「……」
文乃「……へ?」




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