クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。
急に耳元で聞こえた透き通った美声に、頭がパニックになる。振り返るとそこには、いつの間にか目を覚ました甘音が、超至近距離で立っていた。
文乃「……っ!」
甘音は文乃の後ろから、背中越しにPC画面をじっとのぞき込んでおり。
甘音「……、小説?」
文乃「……えっ、はい……ッ。……あ」
文乃(……どうしよう、言っちゃった、秘密にしたいのに……ッ)
しかも、学校一オシャレな美少年に。いや、むしろ相手が学校一の美少年だったから、思考がフリーズして。全身から冷や汗が出て心臓がバクバク鳴る。しかし。
甘音「……ふぅん。ちょい失礼」
文乃「――っ!」
甘音は固まる文乃の様子を気にも留めず、文乃の手に自身の手を重ねる。そのまま文乃の手ごとマウスを操作し、画面をスクロールし始めた。
文乃「………………」
文乃「……あの……、手……」
甘音「ん、……何?」
文乃「……ッ」
甘音が首を傾げ、すぐ近くで視線が合う。吸い寄せられるようなその破壊力に思わず、
文乃「……なんでもない……です……」
文乃(顔がキレイすぎて、見れないよ……)
涙目になって悶絶する文乃を尻目に、甘音は視線を画面に戻し。
甘音「……」
カラカラとしばらくスクロールを続けた。高鳴る胸の音が響く。
文乃(う……そろそろ、限界……)
そう思った時にパッと手が離れる。振り返ると甘音は画面を見つめたまま。
甘音「……これ、全部キミが書いたの?」
文乃「……そ、そうです」
甘音「ふぅん。……あのさ」
甘音が何かを言おうと口を開く。その瞬間。
文乃「……ッ」
文乃の脳裏に、トラウマがよみがえる。
男子2『……ヤバくね?』
女子『マジないわー』
男子3『――気持ちわる』
胸の奥がずしんと重くなり、思わず俯いた。
文乃(……どうしよう、怖い……聞きたくないよ……ッ)
何で人前で執筆してまったんだろう。自分の脇の甘さを後悔する。このまま逃げ出してしまいたい衝動にかられ、涙目で半分腰を浮かせかけた時。
甘音「……かった」
文乃「……え?」
甘音「――面白かった」
文乃「!」