クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。
第二話 クールな甘音くんが、おかしい。
〇翌日の夜。文乃は自宅で入浴している。顔の半分までお湯に浸かって、昨日の出来事を思い出し。

文乃(……正直、けなされるかと思った。……でも)

回想:昨日の甘音『……面白かった』
        『……続きが読みたい』
        『……がんばってね』

 ……回想終了。

文乃(……がんばれ、って言われた。……もっと他人行儀で、冷たい人だと思ってた)
文乃(あのあと、なんだかやる気が湧いてきて、すごく集中できた。おかげで更新もなんとか間に合った。甘音くんのあの言葉がなかったら、私、今度こそ無理だったかもしれない……)
  (……なのに、私……、……ッ)

 ぶくぶくと湯船で子どもみたいに泡を出しながら、頭を抱える。

文乃(――甘音くんに、実は『目薬入れるの苦手』だってこと、言えなかった!)

文乃(……もらったのに使わないのは、すっごく失礼な気がする。まだ新品だし。……そうだ)

 湯船から盛大に立ち上がり、

文乃(……やっぱり明日、ちゃんと返しにいこう!)



〇翌日の放課後。2C教室。

文乃「……うう……」
  (……なんて。そもそも、男子苦手な私には、ハードル高すぎました……)
りん「どしたの文乃。苦い顔して?」
文乃「……マリンちゃん……ッ。なんかね、私ってホント、ダメダメだなぁって……」
りん「うわ。急にめんどくさいこと言いはじめた」
 
 落ち込みモードの文乃に、りんは呆れた顔を見せつつも、

りん「……よくわからんけど、文乃はすごいと思う。トラウマのことだってさ、普通そこまで傷ついたんなら、書き続けるのすら辞めちゃうと思うんだよ……」
「……でも、文乃は過去を引きずりつつも、しっかり続けてんだよね。なんだかんだ言ってさ。後ろ向きだけど弱くない。……だからなんか、きっと大丈夫じゃない?」
文乃「マリンちゃん……」
りん「と、いうことで部活行ってきまーす。……元気出しなよー?」
文乃「うん。……ありがとうマリンちゃんっ! 私、がんばるッ」

 その瞬間。
 
文乃「あ……」

 甘音とすれ違った。声をかけようとするが、言葉が出てこない。振り返ると、ちょうど人はまばらで、今なら人目も少なく絶好のチャンスだった。駆け出す文乃。甘音を追うように教室を出て階段を下ると、

文乃「……あ、甘音くんッ!」


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