クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。


〇夕暮れの空き教室。赤面してぐったり疲れた文乃を尻目に、甘音は教室の電気をつける。

甘音「……大丈夫?」
文乃「…………うん……」
  (……ぜんぜん、大丈夫じゃない……!)
甘音「……そんなに苦手なんだね、目薬……?」
文乃「……え……」
  (……いやいや、そういう問題じゃないんですけどぉ……?)
甘音「……でも、ドライアイは舐めないようがいいよ。俺の知り合いは癖になったあげく、もう一生治らないそうだから」
文乃「……そうなの?」
甘音「そうだよ。だから、……良かったら、また俺が手伝ってもいい?」
文乃「――いやいやッ! ……それは! ホントに! 遠慮しますッ!」
  (……これ以上は色々ともたないってか、完全にキャパ越え……!)
甘音「……残念……。……じゃあ、お先」
文乃「……え、うん……」
甘音「……」

 ふいに甘音が立ち止まり。

甘音「……柿坂」
文乃「……えっ!? ……は、ハイ!」
甘音「……バイバイ」
 
 見慣れない穏やかな笑顔で甘音が笑う。

文乃「……ッ、……ば、バイバイ……」

 ぎこちなく手を振り返す文乃。扉を閉め、甘音が去っていく。

文乃「……」

 残された文乃は思わずへなへなとその場に崩れ落ちる。

(……び、っくりした……)
(……名前。知ってたんだ……って、あ……!)

文乃「返し……そびれちゃった……」

 文乃は手に残された目薬を見下ろし、

文乃(……甘音くん、……たぶん、いい人。……ちょっとずれてるけど)

 しかし。

〇回想:マウスの上で重なる手。目薬のお手伝いの一件。
 
 ……回想終了。


 先ほどの温度と感触を思い出して、大赤面した文乃は頭を抱える。

文乃(……でもでも! やっぱりいろいろ、おかしすぎませんかッ~~~~!?)




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