クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。
第三話 甘音くんが、私推しの読み専?
〇放課後。カフェにて。
文乃「……てなことがこないだあってね、なんとか更新は維持できました。甘音くんのおかげっ」
りん「…………ふ、ふーん?」
興奮して報告する文乃に、なぜかりんは気まずそうにジト目で視線を外す。
文乃「あれ? マリンちゃんの反応が薄い?」
りん「……あのさ文乃、言いにくいんだけど」
文乃「?」
りん「……眠すぎて、変な夢でも見たんじゃない?」
文乃「そ、そんなことないよッ。いくら私でもそんなに寝ぼけてないッ」
りん「……でも、信じられないっていうか、正直想像もできなくてさ。だってあの甘音くんだよ?」
文乃「……そりゃあ、私も信じられなかったけどさ。……でも」
〇回想。先日の甘音との出来事。
甘音『…………暗すぎると、目によくない。あまり擦るのもダメだよ』
甘音『……大丈夫?』
甘音『……柿坂』
甘音『……バイバイ』
回想終了。
文乃「思ってたよりもすごく、イイ人だったし!(ちょっと距離間おかしいけどッ)」
りん「……ごめん文乃。文乃のことは親友だと思ってる。でもこの件に関しては、ちょっと、んー。昨日は見るからに疲れてそうだったし、ね……?」
文乃「ひ、ひどい。夢でも作り話でもないよッ。……あ、ほら、昨日甘音くんがくれた目薬が、たしかこの辺に……」
りん「……もうやめて文乃ッ。これ以上はさすがに越えちゃいけないラインよ? ……ほら、ひっそりと胸の内にしまっておこ?」
文乃「……だからマリンちゃん! お願いだから憐れむような目で私を見ないでよぉ!」
〇夕方。カフェからの帰り道。手を振ってりんと別れた文乃。
文乃(……まぁ、信じてもらえないのも無理ないなぁ。……でも)
(……甘音くんが実はちょっとおかしくて、でも優しい人だってこと、知ってるのは私だけかもしれないんだ)
(……それはなんか……ちょっとだけ……嬉しい、かも……)
(……て。やめやめ。あの甘音くんの感じだもん。明日にはさっぱり忘れて「何?」になってる可能性もけっこうあるよ? うん)
ぶんぶんと頭を振り、自分の頬をぴしゃりと叩いた文乃。
(マリンちゃんの言う通り、思い出は思い出として胸の内にしまっておこう。あ、部分的に小説のネタにするのもいいかも。……なんて)
〇翌日。休み時間の2Cの教室。
甘音「――ちょっといい?」
文乃「…………え?」
異変は翌日の学校で起きた。いつも通り撮影のため遅刻してきた甘音だったが、休み時間に文乃に声をかけてきたのだ。
モブ1「――う、嘘?!」
モブ2「いつも女子と話す時は『塩敬語』な甘音くんが、……タメ口で?!」
モブ3「しかも、相手はまさかの……誰だっけ?」
モブ1「……たしか、柿坂さん、じゃない? クラスで全然目立たないけど、それがどうして?!」
モブ2「本当に本当に、どういう展開なの!?」
当の文乃も虚を突かれて死ぬほど驚いたが、周囲の注目を一身に浴びて真っ赤になりつつ、
文乃「……な、何、ですか?」
甘音「……ここじゃなんだから、場所を変えてもいい?」
甘音は感情の読めない表情のまま、不意に文乃の手から掴んだペンを鮮やかに奪い、
周囲「「「 !? 」」」
甘音「……来て」
そのまま袖を引いて文乃を立たせる。その光景に一同は完全に赤面し、2人の挙動を見守る。
文乃「……! あっ、あの、甘音く……?」
甘音「……いいから」
食い入るような視線を避けるように廊下に出る甘音。戸を閉めた瞬間、悲鳴とざわめきがドッと爆発したのが、廊下からでも聞こえた。